artscapeレビュー

2013年06月15日号のレビュー/プレビュー

室井公美子「It searches」

会期:2013/05/11~2013/06/08

ギャラリーモモ六本木[東京都]

0号程度の紙に水彩が200点はあろうか。色彩は「室井カラー」ともいうべき灰色がかった紫が中心で、顔や人体、動物、花、風景を思わせる半抽象的イメージが、にじみやボカシを生かして描かれている。キノコ雲のように見えるものも2、3あったが、偶然か、気のせいか。

2013/05/31(金)(村田真)

小沢剛 高木正勝 アフリカを行く──日本とアフリカを繋ぐ2人のアーティスト

会期:2013/05/25~2013/06/09

ヨコハマ創造都市センター[神奈川県]

第5回アフリカ開発会議(TICAD5)の開かれている横浜で、その「パートナー事業」として行なわれた展覧会。小沢剛と高木正勝の2人展で、どちらもアフリカをテーマにした新作を見せているが、小沢が抜群にサエている。ふだんあまり縁のないアフリカと日本をつなぐものを考えて、そこに福島の原発事故が頭をよぎり、出てきた解が野口英世。福島出身の野口は、アメリカを経てアフリカに渡り、みずからの研究対象だった黄熱病に罹ってガーナで死去した細菌学者だ。これは絶好のネタ! と小沢が叫んだかどうかは知らないが、さっそくアフリカに渡って現地の看板屋に野口の生涯を描いてもらったのが、1階に展示されている8枚の大画面《帰って来たDr. N》だ。節約のためか、横長の画面を左右2場面に分けている。描かれているのは日本人のはずだが、顔も衣装も背景も日本なのか中国なのかアフリカなのかわからず、思わず笑ってしまう。また文字を覚えたDr. Nの母からの手紙は、ひらがなっぽいけどハングルにも似た不思議な書体で書かれ、頭がクラッとする。そのかたわらには野口自身の筆になる油絵も飾られているが、本物かよ。最後はDr. Nの子孫が福島に里帰りし、放射能汚染を調査するというストーリー。TICADの主旨がいつのまにか原発問題にスリ替わっているのだ。これで日本がアフリカに原発を輸出するのは難しくなった(としたら大成功)。

2013/05/31(金)(村田真)

濱田祐史「Pulsar + Primal Mountain」

会期:2013/05/07~2013/06/29

フォト・ギャラリー・インターナショナル[東京都]

濱田祐史は1979年大阪府生まれ。日本大学芸術学部写真学科を2003年に卒業後、出版社勤務を経てイギリスに滞在し、本格的に写真家としての活動を開始する。東京での初個展となる今回の展示には、「Pulsar」と「Primal Mountain」という2作品が出品された。
「Pulsar」は身近にある光を可視化しようとする作品。風景の一部(かなり大きなパートを占めることもある)に射し込む光が、スモークの効果で、幾筋かの光束、あるいは光のプールのような状態として見える様子が、繊細に仕上げられたカラープリントに定着されている。たまたま公園で撮影していたときに、ブランコを漕いでいた少女が「この光はどこからくるの?」と呟いたのを聞いたのが、制作のきっかけになったという。「Primal Mountain」は銀紙のようなもので架空の山の形をつくり、それらを、空を背景として撮影した連作である。こちらはある日友達から、「美しいけれど何やら嘘っぽく」感じる山のポストカードが届いたことから思いついたプロジェクトだ。
両方とも発想の妙があり、それを形にしていく手際も悪くない。だが、どこか綺麗ごとに終わってしまっているところが、なんとも歯がゆく感じてしまう。作品としてすっきりとまとめるのを優先するよりも、もう少しもがいてほしいとも思う。写真家としての潜在能力はかなり高そうなので、それは決して無い物ねだりではないはずだ。

2013/05/31(金)(飯沢耕太郎)

プレビュー:景 風 趣 情──自在の手付き

会期:2013/06/14~2013/07/14

京都芸術センター[京都府]

伊藤存、小川智彦、ニシジマ・アツシの3名のアーティストが自ら企画し開催する展覧会。フライヤーには「現実の根底にある自然法則に気付くのは達人で、現実の根底にある自然の調和に気付くのは詩人である」という湯川秀樹(理論物理学者)の言葉も記されている。今展では、3人のアーティストが、言わば詩人の観点に立ち、キーワードである「景」「風」「趣」「情」の四つの文字から生まれる「あわい」の存在を読み解き、表現の根底にある調和を作品展示によって試みる。

2013/06/15(土)(酒井千穂)

プレビュー:國府理「未来のいえ」

会期:2013/06/22~2013/07/28

西宮市大谷記念美術館[兵庫県]

國府理は、自動車、自転車、バイクなどの乗り物をモチーフとして、大型の立体作品を発表してきた。その最大の特徴は、ただ造形表現を目指すだけでなく、実際に機能する構造と強度を兼ね備えていること。近年は、移動する乗り物という枠を超えて、植物を自生させるための装置としての作品や、エンジン動力そのものを見せる作品を手がけている。今展では、独自の造形性を確立した初期作品から、植物を取り入れた近作群、また実際に稼働する新作を一堂に展示。芸術と科学技術のはざまから現実と未来を見つめる國府理の視点に迫る。

2013/06/15(土)(酒井千穂)

2013年06月15日号の
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