artscapeレビュー

モチハコブカタチ──かばんのトップメーカー、エースのデザイン展

2011年11月1日号

会期:2011/10/04~2011/10/23

東京藝術大学大学美術館 陳列館1,2階[東京都]

2010年に創業70周年を迎えたカバンのトップメーカー、エースのデザインの歴史をたどり、その機能性の哲学を探る展覧会である。陳列館の1階は歴史。1950年代から現在までのエースのデザイン変遷を、ビジネスバッグ、カジュアルバッグ、スーツケースの三つに分け、同時代の世相の解説と共に展示する。なによりも懐かしく感じたのは、紺色に白く「MADISON SQUARE GARDEN SPORTSMAN CLUB」の文字が抜かれたナイロンのスポーツバッグ。このいわゆる「マジソンバッグ」は、1968年から1978年までの10年間に約2,000万個(うち半分は類似品)も売れたという。当時の学生たちがみな持っていたといっても過言ではないだろう。
 2階の展示ではエースのバッグの機能性を検証する。ビジネスバッグ(ACEGENE EVL-2.0)、ソフトトロリー(ProtecA プライト)、ハードトロリー(ProtecA エキノックスライト)の3種類のカバンを分解し、重量を極限まで減らしつつも耐久性を実現する構造を探る。一つひとつのパーツに分解されたカバンは、佐藤卓の『デザインの解剖シリーズ』を思い出させる。会場ではほかに、芸大生による「モチハコブカタチ」の提案があった。カバンという定型にこだわらない自由なアプローチがすばらしい。もっとスペースを割いて展示しても良かったと思う。
 歴史をたどり、製品の素材と構造をみて感じるのは、エースがカバンというファッションの分野でものづくりをしながらも、見た目の奇をてらうのではなく、技術や素材、機能性を最大限に重視している点である。小規模な企業が多いカバン業界のなかでエースが抜きんでた存在になった理由は、1950年代のナイロンや合成皮革を用いたカバンへの挑戦にある。1964年から2004年まで続いた米国サムソナイト社との提携においても、ただライセンスを受けて生産するのではなく、プライベートロックやキャスター、伸縮式ハンドルなどの新しい機能を提案し、それがいまではスーツケースのスタンダードになっている。マジソンバッグも特別なカバンではない。使い勝手に優れていたからこそのヒットなのだ。製品開発の方向が、きちんと消費者に向いている。そのうえで、デザインもおろそかにしない。サムソナイトとの提携終了と前後して、エースはライセンス生産から自社ブランドの強化へと舵を切り、アジアを中心とした海外市場への展開も進めている。ブランドの強化、市場の拡大は、エースのデザインをどのように進化させてゆくことになるのだろうか。[新川徳彦]

2011/10/06(木)(SYNK)