artscapeレビュー

宮本亜門(演出・振付)『メリリー・ウィー・ロール・アロング──それでも僕らは前へ進む』

2013年12月01日号

会期:2013/11/01~2013/11/17

銀河劇場[東京都]

門外漢ではあるのだけれど、珍しくミュージカルを見に行ったので、印象を記しておこうと思う。本作は、もともと1934年にジョージ・カウフマンとモス・ハートによってつくられた同名作を、1976年から1957年に舞台をかえてジョージ・ファースが脚本をスティーヴン・ソンドハイムが曲を書いてリメイクした、バックステージもののアメリカン・ミュージカル。「1976年から1957年」と書いたが、この作品の際立った特徴は時間が逆行するところだ。主たる登場人物は2人、ハリウッドのプロデューサー(フランク:柿澤勇人)とニューヨークで活躍する劇作家(チャーリー:小池徹平)。フランクは成功を収めているがいまの成功はかりそめに過ぎないと絶望しており、いまとなっては困難なのだが、本当は若いころに一緒に作品をつくったチャーリーとやり直したいと思っている。華やかだが虚しさの漂うパーティ場面から、物語は2、3年の間隔で過去へと遡行してゆく。テープを巻き戻すように2人がどうして仲違いをしてしまったのか、あるいはかつてはどんなに仲の良い2人だったのか、どんな若々しい希望に溢れた夢を語り合っていたのか、約20年分の2人の過去が次第にわかってくる。ミュージカルらしい強引で生真面目な構造は不可逆的で、引き返せないジェットコースターのよう。キャンピー(わざとらしくておかしい)だけれど、よくできていて、とくにそう思わせるのは、青春期から中年期へと進む普通の進行であれば、希望が絶望に変わるだけの話が、逆に進むことで、絶望から希望の話に錯覚してしまうところだ。いや、本当は絶望への物語なのでそう錯覚すること自体皮肉めいているのだけれど、〈内面の沸き立つ思いがあふれてきて思わず歌い踊ってしまう〉というミュージカル独特のフォーマットを活かすには、希望へと進んで行く趣向はきわめて合理的なはず。けっして明るい話ではないのに、見終わった感触がいい、でも、たんにハッピーエンドではない、という絶妙な味わいが生まれていた。正直、小池徹平や高橋愛といった芸能人や、その他の歌手、ミュージカル俳優たちの演技の質はよくわからない。メロディーを歌いこなせていないのではと思わされるところも目立った。プロジェクション・マッピングを用いた舞台美術はすっきりとしていて、またミュージカルの虚飾性にフィットしているとも思った。

2013/11/13(水)(木村覚)

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