artscapeレビュー

前田春人写真展《Quiet Life》

2016年08月01日号

会期:2016/06/18~2016/06/26

Kobe 819 Gallery[兵庫県]

1992年から94年の約3年間、報道写真家として南アフリカに滞在し、ネルソン・マンデラ大統領の就任とアパルトヘイトが廃止される過程を取材した前田春人。彼は都市部の緊迫した政治状況を取材する一方、小さな村の静かな日常を捉えた写真も撮影していた。それらをまとめたのが、本展で展示された《Quiet Life》シリーズである。彼が訪れたカカドゥ村は、アパルトヘイトにより故郷を追われた人々(棄民)が住む村であり、都市部とは違ったかたちでアパルトヘイトの本質が表われた場所であった。じっくりと時間をかけて取材を行なった作品は、けっして煽情的なものではない。しかし、これらもまた南アフリカ史の一断面なのだ。こうした地道な仕事が、歴史のなかで埋もれずに残っていくことを望む。

©HARUTO MAEDA

2016/06/21(火)(小吹隆文)

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