2024年03月01日号
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artscapeレビュー

2016年08月01日号のレビュー/プレビュー

arflex×ミロコマチコ「けはいのねっこ」

会期:2016/06/16~2016/06/28

アルフレックス大阪[大阪府]

高級家具店のショールームで美術展。この手の企画はすでに手垢がついており、「何となく仕上がりが予想できるな~」と思いながら会場に向かった。で、実際にはどうだったかというと、これがもう予想をはるかに超える素晴らしいコラボレーション。家具の周囲にインテリアよろしく作品を並べました、なんてレベルではなく、ヘラジカを描いた巨大壁画を筆頭に、ゾウやクジラ、七面鳥(別の鳥かも?)など大作が目白押し。ペイントした椅子やモビールで飾り立てたコーナーがあるかと思えば、きちんと額装した作品を並べた壁面もあり、それらが上質なインテリアと美しく響き合っているではないか。ああ、なんてこった。知ったかぶりして斜に構えていたのが恥ずかしい。手垢が付いているのは、企画ではなく自分だった。

2016/06/20(月)(小吹隆文)

前田春人写真展《Quiet Life》

会期:2016/06/18~2016/06/26

Kobe 819 Gallery[兵庫県]

1992年から94年の約3年間、報道写真家として南アフリカに滞在し、ネルソン・マンデラ大統領の就任とアパルトヘイトが廃止される過程を取材した前田春人。彼は都市部の緊迫した政治状況を取材する一方、小さな村の静かな日常を捉えた写真も撮影していた。それらをまとめたのが、本展で展示された《Quiet Life》シリーズである。彼が訪れたカカドゥ村は、アパルトヘイトにより故郷を追われた人々(棄民)が住む村であり、都市部とは違ったかたちでアパルトヘイトの本質が表われた場所であった。じっくりと時間をかけて取材を行なった作品は、けっして煽情的なものではない。しかし、これらもまた南アフリカ史の一断面なのだ。こうした地道な仕事が、歴史のなかで埋もれずに残っていくことを望む。

©HARUTO MAEDA

2016/06/21(火)(小吹隆文)

坂本素行展

会期:2016/06/20~2016/07/02

ギャラリー上田[東京都]

象嵌技法で緻密かつ色彩豊かな装飾を施したユニークな器を作る坂本素行。今回の展覧会では、初めて手がけたという陶板画が器とともに並ぶ。基本的な技法は器も陶板も変わらない。ベースとなる陶土の上に、異なる色の陶土を重ね、ナイフで模様を切り出しさらに別の色の陶土で埋めてゆく。違いとしては器の場合はボディをろくろで挽くのに対して、陶板は綿棒で板を作るぐらいか(手近な台所道具を活用しているそうだ)。ただ、印象は大きく異なる。用のある器と絵画的な陶板との違いというだけではない。手の跡、釉薬や焼成による斑など、自然による干渉の痕跡を徹底的に消し去っている器の造形に対して、陶板の輪郭は緩やかでしばしば波打っている。均質なパターンで表面が埋め尽くされている器の文様に対して、陶板に描かれるラインは自由。モチーフは主にアルルカン。その理由は、陰影を付けなくてもコスチューム模様の形の変化で身体の立体感を出せるからだそうだ。画面の構成はフランスの古いポスター、絵看板を思わせる。色面と色面が重なり合い透過しているように見える部分があるが、もちろんそれぞれに異なる色の陶土を象嵌して表現している。自由に見えるけれども、器の作品と同様に極めて精緻でデザイン的な仕事なのだ。[新川徳彦]


会場風景

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INLAY 坂本素行展:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2016/06/28(火)(SYNK)

オルセー美術館特別協力 生誕170周年 エミール・ガレ

会期:2016/06/29~2016/08/28

サントリー美術館[東京都]

今年初めに東京都庭園美術館と宇都宮美術館を巡回するエミール・ガレの展覧会が開催されていたばかり。国内には北澤美術館など、ガレの作品を常設展示している美術館も多く、ガレの展覧会は頻繁に開催されている印象がある。サントリー美術館もガレの優品をコレクションする美術館のひとつだが、意外にも同館でのガレ展は8年ぶりだという。本展にはオルセー美術館が所蔵するガレのデッサンなども出品されており、充実した内容。余談だが、出品作品のひとつ、花器「アイリス」(1900年頃)は、ダルビッシュ有氏の父ダルビッシュセファット・ファルサ氏のコレクション。サントリーミュージアム天保山でガレ作品に出会って以来始めたコレクションのひとつで、今回初公開なのだそうだ。
最初に展示されているのはガレ最晩年の作品・脚付杯「蜻蛉」(1903-04)。大理石を思わせるマーブルガラスの杯に、ガレが好み、繰り返しモチーフに用いた蜻蛉の浮き彫りをあしらった器は、白血病による死を予感したガレが近しい友人・親戚に送ったものだという。展覧会ではこの作品をガレの到達点と位置づけて、ガレの仕事が「究極」に至った道程をその生涯における関心、関わりに従って「祖国」「異国」「植物学」「生物学」「文学」をテーマに全5章で構成している。このうち植物学・生物学という視点は、ガレに限らずアール・ヌーヴォーの作家たちに共通するテーマであり、これまでにもさまざまな展覧会で見ているが、祖国・異国・文学との関わりは、ガレの作品をかたちづくった背景として、とても興味深い。とくに第2章「ガレと異国」には、ガレが日本美術・中国美術から影響されてデザインした異国趣味の作品が並ぶほか、ガレの旧蔵品である中国の鼻煙壺、日本の陶磁器──宮川香山の作品もある──などが出品されており、東西の美術工芸品が並ぶことでその影響関係と様式の同時代性を見ることができる。北澤美術館初代館長・北澤利男氏は「ガレのガラスと初めて出会った時、これは日本画ではないかという強い印象を受け」たと書いている。日本人のガレ好きの背景には、このような東洋美術・日本美術との親和性があるのだろう。会場最後の作品はランプ「ひとよ茸」(1902年頃)。一晩でカサが開き、軸を残して溶けてしまうというヒトヨタケをモチーフにした巨大なランプは、器の表面に施される比較的平面的な装飾から、装飾と構造、造形の一体化へと発展していったガレ作品の「究極」のひとつ。ここでガレの物語は展示の最初に示された到達点とつながる。
3階吹き抜けでは、ガレのサインのヴァリエーションが紹介されている。ガレは年代別ではなく、作品のイメージに合わせてサインのスタイルを使い分けていたという。器と、器のサイン部分を接写したポジフィルムのベタ焼きを並べた展示構成は秀逸。オルセー美術館所蔵のデザイン画とサントリー美術館所蔵の作品写真を半分ずつ構成したチラシのデザインも印象的だ。[新川徳彦]


展示風景

★──『アール・ヌーヴォーのガラス 北澤美術館コレクション』(光村推古書院、1994)(花井久穂「日本のガレ受容をめぐる三つの種子──『日本人のガレ好き』はいつから始まったのか?」、『ガラスの植物学者 エミール・ガレ展』茨城県陶芸美術館、149頁)。

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世界に挑んだ明治の美──宮川香山とアール・ヌーヴォー:artscapeレビュー|美術館・アート情報 artscape

2016/06/28(火)(SYNK)

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時代(とき)をこえて ギャラリー・コレクションを中心に

会期:2016/06/28~2016/07/03

galerie 16[京都府]

ギャラリーコレクションを中心とする13作品で、1960年代から80年代の関西現代美術シーンを振り返る企画展。同時期に大阪で行なわれたアートフェア「ART OSAKA」に参加した同画廊が、そこでの展示とアートフェア経由で京都を訪れる客層を意識して企画したと思われる。出展作家は、野村耕、古田安、岩田重義、三島喜美代、柏原えつとむ、狗巻賢二、木下佳通代、北辻良央の8名。なかでも、1970年代、80年代、90年代(遺作)の変遷がうかがえる木下佳通代の展示は見応えがあり、柏原えつとむが1968年に発表した《カーテンを認識するためのカーテン》も、欧米でコンセプチャルアートが隆盛し、日本で「もの派」が始まろうとしていた時期であることを意識すると感慨深かった。また、三島喜美代が1964年に発表した絵画も、いまとなってはレアな作例だ。画廊のコレクション展でこれだけ見応えのあるのは珍しい。さすがは50年以上の歴史を誇る老舗画廊といったところか。

2016/06/28(火)(小吹隆文)

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