artscapeレビュー

グラフィックトライアル2016 crossing

2016年10月01日号

会期:2016/06/11~2016/09/11

印刷博物館P&Pギャラリー[東京都]

11回目となるグラフィックトライアルのテーマは「Crossing:横断・過渡・交差」。これまでのグラフィックトライアルではオフセット印刷における多様な表現の試みが行なわれてきたが、今回からはそれに加えてシルクスクリーンなどの特殊印刷技法も併用され、4名のクリエイターとプリンティングディレクターの協業によるユニークなトライアルが行なわれた。アラン・チャンのトライアルは陰陽五行説。森羅万象を司る木・火・土・金・水の5つの元素に宿る意味を、モチーフとなるオブジェ、5つの数字、用紙とモチーフの質感の印刷による再現によって表現している。特色金よりも特色イエローのほうが金の質感をよく表現できているところが面白い。えぐちりかのトライアルは剥離する印刷。オフセットとシルクスクリーンの組み合わせにより、触れたり擦ったりすると表面が剥離してその下の図像が現われるというテクスチャーを作っている。最終的なポスターには女性ヌードのモザイク写真がモチーフとして使われているが、表面を剥離すると何が現れてくるのか、じっさいに確かめてみることが出来なかったのが残念だ。保田卓也のトライアルは色の混ざり合い。オフセット印刷でグラデーションを表現するには網点を用いるが、今回のトライアルではあえて網点の角度を揃えたり、ベタ版の左右に異なるインキを入れて物理的に混色したり、印刷機のインキキーによって濃淡をコントロールするなど、印刷による再現というよりもオフセット印刷機を使った新たな表現の可能性を試みている。今回最も興味深いのは新島実のトライアルで、等明度な色彩空間をつくるというもの。色相は異なるが明度は同じ色。データを作ることは容易だが、印刷による再現には困難が伴うのだという。明度は同じであっても、彩度が異なると明るさが違って見える。隣どうし並んだ色の組み合わせによっても人の目には明るさが異なって見える。新島のトライアルではプリンティングディレクターの経験、知識、勘を駆使して人間の視覚に等明度と認識される色彩空間をつくりだしている。「機械と人間の感覚をどこまで『Crossing』できるかというトライアル」(新島)なのだ。[新川徳彦]

2016/09/10(土)(SYNK)

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