artscapeレビュー

刺繍(ぬい)と天鵞絨(ビロード)

2016年10月01日号

会期:2016/08/20~2016/11/13

清水三年坂美術館[京都府]

絵筆の代わりに絹糸や金糸を用いて絵画のように表現する刺繍絵画と、ビロード地に友禅染を施した天鵞絨友禅の優品の数々。花鳥、風景、動物の刺繍絵画は、図案のなかの光や立体感を色面ばかりでなく、糸の種類、縫いの方向、厚みによって巧みに表しており、その職人の技倆と生み出された表現の繊細さに息を呑む。こうしたいわゆる「超絶技巧」の作品の他に興味を惹かれたのは、明治30年から大正期に作られたという「刺繍織」と呼ばれるもの。刺繍織は白い無地の織物で太めの糸を浮かせるように織ってある。絵柄に合わせて生地に色を差し、部分的に色糸で刺繍を施す。技法的には染めと刺繍の組み合わせではあるが、遠目には総刺繍のように見えなくもない。つまり安価に刺繍絵画をつくるための手抜き、省力化の技術だ。手を抜きたい、楽をしたいというモチベーションはしばしば技術進歩の原動力であり、その当時は多いに可能性のある発明だったと思われるが、いかんせん、生活必需品ではない他の輸出工芸と同様に刺繍絵画は産業のメインストリームになることはなく、汎用性のある技術として発展することはなかったようだ。[新川徳彦]

2016/08/26(金)(SYNK)

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