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祝いの民俗─ハレの造形─

2017年02月01日号

会期:2017/01/02~2017/02/12

埼玉県立歴史と民俗の博物館[埼玉県]

季節や人生の節目を祝う民俗を紹介する企画展。おもに埼玉県内の伝統的な行事に注目しながら、正月、婚礼、棟上げ、進水式などでつくられた飾りや衣装、贈答品などの造形物を展示した。比較的小規模な展示だとはいえ、かつて日本社会のなかで機能していた「ハレ」の機会の実態を総覧できる好企画である。
しめ縄でつくられた宝船、恵比寿様や大黒様を描いた引き札、そして結納品飾りとして送られていた松竹梅の水引細工。それらは、いずれも人生や季節という時間の流れを分節化するために、日常生活と密着した素材で庶民の手により制作された、ある種のブリコラージュである。都会的で洗練された現代美術とは到底言い難いが、無名の庶民のあいだで流通していた造形物という点では、まさしく限界芸術と言えよう。だが、本展で展示された数々の民俗資料を目の当たりにすると、むしろ現代美術との強い関連性を思わずにはいられなかった。
むろん、一般論で言えば、現代美術と民俗文化は反比例の関係にある。都市文化の象徴である現代美術の普及は、各地の隅々にあった民俗文化の衰退と、ほぼ同時進行の現象として考えられるからだ。事実、かつて地方に乱立された公立美術館は、各地の民俗を取り込むというより、むしろ塗りつぶすかたちで建造された。どこの常設展でも同じような作品が同じように展示されている風景は、固有の民俗性を決して含めない現代美術の排他性を示す何よりの例証である。
ところが現在、私たちの視線と欲望は明らかに民俗文化に向いている。昨今の地方芸術祭の隆盛に見られるように、私たちが目撃したいのは土地と切断された美術館で普遍的な価値を備えた美術作品などよりも、土地と密接不可分な価値を内包した美術作品である。快適で美しいホワイトキューブに展示された美術作品に飽き足らない思いを抱えた者たちは、たとえ過酷な環境であっても、未知の民俗を実感できる美術作品に率先して脚を伸ばしている。すなわち、現代美術と引き換えに失ってしまった民俗文化を、当の現代美術の只中で取り戻すこと。少なくとも2000年代以後の日本の現代美術に何かしらの構造的変化があったとすれば、それは、スーパーフラットやらマイクロポップやらの消費を煽るだけのキャッチフレーズの衰退というより、むしろ都市型の現代美術から民俗的な現代美術への重心移動と要約できるのではないか。
とはいえ現代美術と民俗文化の接点は、そのような時事的な構造変化に由来しているだけではない。そもそも現代美術の作法には民俗文化のなかで繰り返されてきた精神的な営みと通底する部分があった。それが「神」をめぐるイマジネーションのありようである。
長谷川宏の名著『日本精神史』(講談社、上下巻、2015)によれば、仏教が導入される以前から続く古来の霊信仰において、神とは「善いものでも悪いものでも、特別の威力をもち人間に畏敬の念を起こさせるもの」(同書上巻、p.75)である。つまり神は、あらゆる天地に偏在するのであり、それらは「目に見えるというより心身に感じ取られる存在」(同、p.79)とされた。それゆえ古代人にとって「対象を見ることにはさほど重きが置かれず、霊を感じ取ることこそがなにより大切なことだった」(同、p.89)。例えば、それ自体に聖なる価値が置かれた仏像とは対照的に、新年に歳神を迎えるための門松のような依代や霊が寄りつく人間である憑坐は、信仰の対象そのものではない。神の存在を感知するには、それらの物質の先をイメージすることが求められていたのである。
そう、現代美術とは、改めて言うまでもなく、物質の造形に基づきながらも、その先に想像力を飛躍させることを要請する芸術である。「見る」ことと「感じる」ことが表裏一体になっていると言ってもいい。いや、(神に代わって)コンセプトを金科玉条として崇める現代美術だけではあるまい。絵画であれ彫刻であれ映画であれダンスであれ、はたまた演芸であれ、あらゆる諸芸術は本来的に造形や身ぶりの彼方に何かしらのイメージを幻視させる技術によって成立していたはずだ。その想像力の行き先が神ではないとはいえ、私たちは、つねにすでに、神を感知するための技術をそれと知らずに使いこなしていたのではなかったか。
だとすれば私たちが現在求めている民俗文化とは、まさしく現代美術のハードコアから再生しうるものなのかもしれない。例えば近代的な都市生活に疲弊した現代人に地方の農村をある種のユートピアとして幻視させる物語が、ある一定の成果を導き出していることは事実だとしても、その道のりは現代美術の外側にしかないわけではない。むしろその内側の核心に潜在している批評的な契機をこそ切り開く必要があるのではないか。

2017/01/20(金)(福住廉)

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