artscapeレビュー
ジャン・ル・ギャック展
2017年02月01日号
会期:2017/01/21~2017/02/18
ギャラリーヤマキファインアート[兵庫県]
1936年生まれのフランス人アーティスト、ジャン・ル・ギャック。彼は伝統的な絵画表現あるいは典型的な画家像を志向していたが、それが時代と合わないことを悟ったのか、1960年代の後半になると、絵画、写真、文章を組み合わせた独自の作品を発表するようになった。作品で描写されるのは自身の子供の頃の記憶などプライべートの一部だが、事実と虚構が織り交ぜられており、観客を甘美な推理の世界へと導く。同様の作風をもつ作家にソフィ・カルがいるが、カルは1950年代生まれであり、絵画は用いていない。彼女より15年以上前に生まれたル・ギャックがこのような表現に至った背景には、1960年代後半の美術界を席巻していたコンセプチュアル・アートがあるだろう。しかし、アメリカやドイツの作家のようにハードな表現に向かわず、詩情豊かな世界を構築するあたりは、さすがフランスの作家という感じだ。そういえば、ヌーヴォー・レアリスムやシュポール/シュルファスの作家たちも詩的な余韻を大切にしていたではないか。ル・ギャックは日本ではほとんど知られていないと思うが、1972年にはヴェネチア・ビエンナーレとドクメンタに選出され、1984年にパリ市立近代美術館で個展を行なうなど、一定の評価を確立した作家のようだ。同画廊が今後も継続して彼の作品を紹介してくれることを望む。
2017/01/21(土)(小吹隆文)