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秋岡芳夫全集4 暮らしと家具

2017年04月01日号

会期:2017/02/11~2017/03/19

目黒区美術館[東京都]

工業デザイナー秋岡芳夫(1920-1997)が関わった多彩な仕事をテーマ別に紹介するシリーズの4回目は「暮らしと家具」で、「進駐軍のための家具デザイン」(1946)、『家庭の工作』(1953)、《あぐらのかける男の椅子》(1983)が取り上げられている。時期が異なる3つの仕事だが、いずれもモノのデザインに対する秋岡の視線、思想を知ることができる事例だ。
秋岡芳夫は1939年に東京高等工芸学校に入学し、木材工芸科で木工、機械工学、建築、家具、室内装飾などを学び、卒業後は東京市の建築部学校営繕課に就職して学校家具の改良などに携わった。戦後は、商工省工芸指導所の仕事に関わるなかで、進駐軍家族住宅用家具の設計を行なった。しかしながら、秋岡はここから家具のデザインへとは進まなかった。進駐軍家族住宅用の家具は外国人の生活のための調度であり、進駐軍の担当者から椅子のデザインに幾度もダメ出しされるなかで「生活体験のないモノをデザインするのは間違いだ」ということに思い至ったのだ。秋岡が再び椅子のデザインを手がけたのは1980年代。その前、1977年に秋岡はグループモノ・モノから『くらしの絵本─日本人のイス:テーブル』という小冊子を出し、日本人の住宅と体型に合った寸法についての考えを提唱する。そうした思想から、低めで広い座面の《昼寝のできる女の椅子》(1981)、《あぐらのかける男の椅子》(1983)が生まれた。『家庭の工作』(雄鶏社、1953)は、身の回りにあると便利な日用品50数点のつくりかたを掲載した128ページの本で、秋岡が金子至、河潤之介らと工業デザイングループ「KAK」を結成した3ヶ月後に出版された。完成品だけではなく、モノの使用シーンが写真で示されていることや、ものづくりのための道具が写真入りで解説されているところは、まさしく秋岡がいうところの「関係のデザイン」を象徴する仕事だ。[新川徳彦]

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2017/03/17(金)(SYNK)

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