artscapeレビュー
西尾佳織ソロ企画『2020』
2017年04月01日号
会期:2017/03/09~2017/03/12
「劇」小劇場[東京都]
初演では、作・演出・主演を西尾佳織がすべて行なったという本作、今回は3公演を3人の役者がひとりずつ演じた。幼少期の自分を西尾が振り返っているという戯曲の形式からすると、西尾ではない役者の身体が西尾の内面を語るかのような設えになっていた。いくつかのエピソードは「生きづらさ」に関連していた。例えば、小学生の頃、パン工場見学でもらった食べ物をバスの中で投げ合っている男子に乗せられて、ついお手玉をしたという逸話。その「罪」に後で苦しめられた、と振り返る。あるいは、マレーシアで過ごした子供時代によごれや雑さに耐性がついた分、本来の自分の清潔への意識に気付けなくなっていたなんて話。主体性が揺さぶられるような不安定さを丁寧に個人史のなかから掘り返す、そんな言葉で場が満たされた。ところで、ぼくが惹きつけられたのは、当日パンフのテキストだった。「稽古をしながら、人はそれぞれなんと違っているんだろう!」と3人の役者に演出する際の気づきを西尾は紹介してくれていた。そこで「どうにも動かしがたい「その人のその人性」を見」た、と。西尾が「西尾」性を発揮した戯曲にチャレンジすることで、役者がその人性を発出する、ということが面白い。このことを観客の側でちゃんと実感するには、役者3人のバージョンすべてを見なければならないだろうけど、ぼくはこの体験こそしてみたいと思った。もちろん、時間があればできることだが、ぼくにはその時間がなかった。もし、このことに焦点が絞られたら、三者が順々にひとつのセリフを演じていくような、そんな舞台もあり得たことだろう。あるいは、こういう発見がある稽古場というのは、じつにすぐれた劇場だと思わされる。いわゆる劇場は稽古場でのような発見をどちらかというと、二の次にするものだ。とすれば、稽古場から排除されている観客というのは、豊かな発見の上澄みを舐める役を与えられた人間ということになるのかもしれない。
2017/03/10(金)(木村覚)