artscapeレビュー
里見宗次─フランス・日本・タイのグラフィックス
2017年04月01日号
会期:2017/03/06~2017/04/22
京都工芸繊維大学美術工芸資料館[京都府]
大阪に生まれたグラフィックデザイナー 里見宗次のフランス・日本・タイにおける仕事の全容を紹介する展覧会。同大学美術工芸資料館は、作家自身と遺族より寄贈された資料を多く所蔵している。本展では113点の展示品を通して、アール・デコ様式のダイナミックなグラフィックに留まらない多様な作品群、これまで比較的知られることのなかったタイでの活躍の様子までをも見ることができる。里見家と交流のあった小出楢重の影響からパリ行きを決意、エコール・デ・ボザール(パリ国立美術学校)で油絵を学んだ際のデッサン、デザイナーに転換して「ムネ・サトミ」の名のもと活躍してゆく作品(《ゴロワーズの煙草》(1928)ほか、藤田嗣治や宮本三郎、小磯良平らとの交流を示す資料などがまず展観される。このパリ時代には、消費文化に供する楽しげなイラストレーションを用いた作品も印象的だ。また一時帰国後、日本の商業美術界の発展に尽力、日本郵船やミキモト等から依頼されたグラフィック作品をはじめ、国内外における展覧会やデザイナーたちとの交流を示す資料が展示されている。興味深いのは、バンコクでの仕事。外務省からサイゴンを経てタイへ派遣された里見は、終戦を迎えるまで同地で仕事を行なった。シャム航空のポスターや、現地の人々を描いた水彩画などが目に新しい。タイ抑留中に作家が所有していた作品は、憲兵に没収されてしまったため、里見は自らの作品を再制作した。同館には60点に及ぶ再制作作品があるそうで、本展ではポスター作品とコラージュ・描画によって再び作られた作品とが併置される工夫がなされている。里見の確かな記憶力と作品へのこだわりや愛情を感じる。[竹内有子]
2017/03/16(木)(SYNK)