artscapeレビュー

contact Gonzo『訓練されていない素人のための振り付けコンセプト』

2017年12月01日号

会期:2017/10/28~2017/10/29

BUoY北千住アートセンター[東京都]

トヨタコレオグラフィーアワード2014で披露された作品を含む、今回の上演作品は3部に分かれており、それぞれ「001/重さと動きについての習作」「002/速度と動きについての習作(改定)」「003/角度と動きについての習作(新作)」と名付けられている。トヨタでも見た「001」は、メンバーのひとりが床に仰向けになると、もうひとりはその上に乗る。さらにその状態で、乗っている方がリュックに入れていた本を寝そべるメンバーの腹の上に積み上げたり、自転車の車輪を回したり、照明のスイッチも握っていて、暗転したりする。暗転すると、舞台奥にある小屋から3人目のメンバーが出てきて横笛を吹く。明転した瞬間に小屋に戻り戸をぴしゃりと閉める。もちろん、ポイントは仰向けで踏み潰されているメンバーの苦しみで、悶絶の声はマイクで拾われ、ハアハア言う声が増幅されている。彼にはさらにもうひとつのタスクが課せられている。ネジを少し離れたスネアドラムに向けて投げ、ドラムを鳴らすこと。胸と下腹部のあたりに乗った足の位置がずれるたびに、観客までも悲鳴を上げてしまう。終始、仰向けのメンバーが被っている過酷な試練に目が離せない。彼が喘ぐたび、爆笑が会場を取り巻く。一つひとつはほとんど関連のない、多数の要素が舞台に撒き散らされる。そこがコンタクト・ゴンゾの一種の美学なわけだけれど、観客は暴力的な試練に爆笑し、ぴしゃりと閉められる戸にクスクス笑う。これは何かに似ている。それがより鮮明になったのは「002」のなかでだった。「002」では、20メートルの直線をゆっくりと20分かけてメンバーたちが進んで行く。その彼らに、20メートル先から手動の狙撃機が狙いを定めており、1分毎にみかんの砲弾が飛ぶ。狙撃機は予想を凌駕するスピードと威力でメンバーをかすめ、後ろの壁に激突した。狙撃機とメンバーとは徐々に距離を詰め、最後は距離ゼロの状態でメンバーの腹に直撃して終わる。この残酷な肉体の祝宴には見覚えがある。1980年代のテレビのなかで、たけし軍団がビートたけしから被ってきた、あの試練だ。『風雲!たけし城』も思い出す。あの肉体の残酷ショーは、いまやテレビでは封印されており、見ることはない。禁断の果実を齧るように、観客は「ヤバイもの」を見る快楽で、炸裂するみかんの汁を浴びながら、爆笑を繰り返す。現在の舞台芸術の使命のひとつは、テレビにはない、こうした空気を読まずに平然と行なわれるおかしなことを観客に体験させるところにあるのだろう。「003」は、横笛担当のメンバーの体に角材を押し付けると、ひとりの観客を舞台空間に招き、角材の反対端を観客の体に沿わせ、じっとしてもらうところから始まった。次々と観客は手招きされ、二人一組で角材の両端を挟む。そうした枝があちこちで広がり、角材とひとが交互に挟まったオブジェが組みあがり、増殖してゆく。ほぼ全員がオブジェのパーツになったあたりでカウントダウンが始まった。「ゼロ」を合図に、体を緩め、全員の角材が床に落ち、激しい音を立てた。さっきまで爆笑していた観客=傍観者が、ほぼ全員客体化させられたわけだ。この「003」にはあからさまな暴力は表われない。だが「司令」そのものが、一種の暴力であることを、観客は体験した。

2017/10/28(土)(木村覚)

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