artscapeレビュー

ST Spot 30th Anniversary Dance Selection vol.2 ダンスショーケース

2017年12月01日号

会期:2017/11/09~2017/11/12

STスポット[神奈川県]

横浜のSTスポット(認定NPO法人STスポット横浜)が30周年を迎えた。日本の演劇とコンテンポラリーダンスを支えてきた、小さいが重要な劇場である。かつて、ゲスト・キュレーターのサポートを得ながら、若いダンス作家たちが20分ほどの作品を創作し上演する「ラボ20」という企画があった。日本のコンテンポラリーダンスの作家たちにとって「ラボ20」はダンスの孵卵器だった。様式的統一性がない、各自の手法を思考錯誤しながら踊るコンテンポラリーのダンサーたちは、多くが自作自演であり、踊る以外では表現できないものを抱えてしまったという切実さがあの頃のSTスポットを満たしていた。4組の新作が立て続けに上演された本企画は、あのときの切実さを蘇らせていた。Aokidは額田大志(ヌトミック)と踊った。音声の出るキーボードやドラムを額田が演奏しながら、Aokidが踊る、というのが基本的なセット。だが、まるでAokid本人が描くイラストレーションのように、リズムやメロディは軌道を逸脱し、ダンスはAokidが得意とするブレイクダンスを飛び出してしまう。調子っぱずれの浮遊感は、ときどき目を見はるように美しい瞬間を生み出した。モモンガ・コンプレックスは、3人の女性ダンサーたちが白い全身タイツで顔だけ出して、音楽担当の男性に支配されているようで支配しているような不思議な関係性をベースにして踊る作品。調子が外れているところは、Aokidのパフォーマンスにも似ているのだが、モモンガ・コンプレックスには女性特有の自意識が漂っていて、その痛痒さが独特だ。自分の滑稽さを、隠しきれずに晒しきれずに、曖昧なまま時は進む。身体を観客の前に置くことが本来持っている滑稽さへと通じているようで、そうしたダンスの本質的な部分に触れているような気がしてくる。岡田智代はこのSTスポットで「LDK」「Parade」といった主要作品を上演してきた作家だ。モモンガ・コンプレックスの白神ももこの出で立ちとは対照的な「妖艶さ」が不思議に漂う舞台は、岡田でしか達成できない舞台の緊張感を引き出していた。舞台上のダンサーが何かを「見る」仕草によって、観客の意識が誘導されてゆくという岡田らしいデリケートな戦略も印象的だった。最後に岩渕貞太は、急逝した室伏鴻のダンス的極みへ応答しようとする果敢な試みを舞台で見せた。岩渕は室伏と交流のあった最も若いダンサーの一人だろう。手足の長く、若い身体が、室伏独特の呼吸の仕方で身体を捻り、ポーズを取る。室伏にしかできないと思い込まされてきたダンスが、濃密に舞台を満たしていった。
すべての上演を見た後に、コンテンポラリーダンスは、これ以上メジャーにならなくても良いのではないかということを思った。各自のきわめてヘンテコな切実さが、身体の集中と方法的なアプローチとともに、舞台に結晶化しているのであれば、それで良い。非言語的であるがゆえに社会性が貧弱になりそうになる、とてもいびつな表現たちだけれど、だから良いのではないか。こんな場が必要だと切実に思っている人々に、きちんと届いてさえいるならば(そこはしかし、実際、問題があるだろう。ダンスの分野でどんなことが起こっていて、どんな価値を発信しているのかをもっと社会に伝えて行く必要があるはずだ)。

2017/11/11(土)(木村覚)

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