2019年10月15日号
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artscapeレビュー

江成常夫「After the TSUNAMI 東日本大震災」

2019年03月01日号

会期:2019/02/28~2019/03/06

ポートレートギャラリー[東京都]

江成常夫は東日本大震災直後の2011年5月から、岩手、宮城、福島の三県にまたがる津波の被災地を撮影し始めた。今回の写真展は、2018年8月~9月に相模原市民ギャラリーで開催した同名の個展の再展示で、2018年5月まで7年間にわたって撮り続けてきた写真から56点を出品している。江成の撮り方はまさにオーソドックスなドキュメンタリー写真そのもので、会場には被写体の細部までしっかりと捉え切ったモノクロームの大全紙プリントが、息苦しいほどの緊張感を発して並んでいた。

このような、いわば古典的な手法で震災後の光景に向き合うことが、果たして妥当なのかどうかは問い直されなければならないだろう。また、津波の跡を撮影した写真群は、かなり多くの写真家たちによって発表されており、知らず知らずのうちに「見慣れた」眺めになってしまっていることも否定できない。だが、江成の愚直とさえいえそうな写真群は、二重の意味で大事な営みなのではないかと思う。ひとつは、彼がこれまで達成してきた日本と日本人の戦後を再検証する仕事の延長として、この「After the TSUNAMI 東日本大震災」を見ることができるということだ。『花嫁のアメリカ』(1981)、『シャオハイの満州』(1984)、『ヒロシマ万象』(2002)、『鬼哭の島』(2011)と続く彼のドキュメンタリーの仕事の系譜に、この作品も位置づけることができる。東日本大震災をこのような歴史的な視点で捉え直す作業は、これまであまりなかったのではないだろうか。もうひとつは、今回の写真群が6×6判という、どちらかといえば個人的、主観的な視線を感じさせるカメラで撮影されていることの意味である。あくまでも客観的な記録に徹しながら、江成常夫という写真家の自発的、能動的な撮影のあり方を、写真から感じとることができる。「After the TSUNAMI 東日本大震災」は、その意味で、とてもユニークな成り立ちの写真記録といえる。

なお、写真展にあわせて冬青社から同名の写真集が出版された。写真一点ごとに詳細な解説が付されており、その重厚な装丁・印刷が内容に見合っている。

2019/03/05(火)(飯沢耕太郎)

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