artscapeレビュー
真鍋奈央「波を綴る」
2019年03月01日号
会期:2019/02/22~2019/04/07
入江泰吉記念奈良市写真美術館[奈良県]
入江泰吉記念奈良市写真美術館では、隔年で入江泰吉記念写真賞の公募を行なっている。前回の第2回公募からは、同賞の受賞者の展覧会を開催するとともに写真集を制作するようになった。今回の第3回公募で受賞したのは、真鍋奈央の「波を綴る」である。
1987年、徳島県生まれの真鍋は、高校の時にハワイに留学したのをきっかけとして、そこで出会った人たちや風景を撮影し始めた。帰国後にビジュアルアーツ専門学校大阪の写真学科で学ぶが、ハワイの写真はずっと撮り続けていた。今回の受賞作品は、それらをモロカイ島、オアフ島、ハワイ島、マウイ島の4つの島ごとに再構成したものである。ハワイの光と風を全身で受け止め、6×4.5判のカメラで定着した写真群は、彼女の主観的な解釈を押し付けるのではなく、被写体に寄り添うように注意深く撮影されている。とはいえ、一枚一枚の写真に畳み込まれた経験の厚みと蓄積は、しっかりと伝わってくる。出来合いのストーリーに寄りかかることなく、彼女自身の目と心の遍歴が綴られていくのだ。
特筆すべきは、写真展と同時に刊行された写真集『波を綴る』(入江泰吉記念写真賞実行委員会)の出来栄えである。白を基調にした松本久木のデザインは、ハワイというやや特異な場所に漂う、生と死が綴れ織りのように絡み合う気配を見事に浮かび上がらせる。4つの島の写真群をそれぞれミシン綴じの写真集にまとめ、それらをさらに貼り合わせて一冊にすることで、真鍋の意図を受け止めながら、それをさらに増幅して普遍的な視覚的経験として提示することに成功していた。
2019/02/22(金)(飯沢耕太郎)