artscapeレビュー
浜松市の建築をまわる
2021年06月15日号
[静岡県]
久しぶりに浜松市の建築をまわった。ここを拠点に活動する403 architecture[dajiba]のリノベーションやインテリアを再訪した後、彼らの新作《鍵屋の中庇》(2018)を見学する。わずかに跳ね上がった中庇を付加し、その上部から光をとり入れると同時に、陳列棚では下から自然光を導くというシンプルな操作によって、築50年以上のビルの一室において、魅力的な空間が実現されていた。
また近くの駐車場の7階の空きスペースでは、+ticの設計によって、可動の2.3m角の立方体による《CUBESCAPE》が設置されている。東京と違い、ある意味で開発の圧がないこと、またぎゅうぎゅうに商業施設を詰め込む必要がないことによって、浜松は味わい深い古いビルが市街地に多く存在しており、こうした余裕をもった空間を、今後いかにうまくリノベーションしていくかが期待される。
近代建築も興味深い。中村與資平による《静岡銀行本店》(旧三十五銀行本店、1931)は、4本のイオニア式のジャイアント・オーダーが並ぶ。古典主義の建築だが、玄関の両側にある2つのアーチは、やや鈍重で、ロマネスク風にも見える。同じ建築家が手がけた《木下惠介記念館》(旧浜松銀行協会、1930)は、サロンということもあり、スパニッシュ風のもう少しくだけたデザインだ。浜松出身の映画監督、木下惠介の記念館として使われているおかげで、室内も見学できるが、装飾付きの円窓やステンドグラスなどのインテリア・デザインが残る。同市出身の中村に関する資料展示室もあり、銀行協会の当初の図面などが陳列されていた。
ちなみに《浜松市立中央図書館》のデジタルアーカイブは「中村與資平コレクション」を含み、彼の作品の図面や写真が閲覧できるのは素晴らしい。ぜひ、日本の各地方都市でも、こうした建築アーカイブの整備にとりくんでほしい。
道路を挟んで《木下惠介記念館》の向かいにたつのが、《鴨江アートセンター》(旧浜松警察署、1928)である。正面は柱頭がない5本の列柱、室内は幾何学的に処理された独特の柱頭をもち、様式建築が解体されていく過程のデザインだ。本来は左右対称を崩す位置に望楼がついていたが、現在は撤去されたために、かえって硬い表情になっている。
2021/05/01(土)(五十嵐太郎)