2022年10月01日号
次回10月17日更新予定

artscapeレビュー

2022年03月15日号のレビュー/プレビュー

オルタナティブ! 小池一子展 アートとデザインのやわらかな運動

会期:2022/01/22(土)~2022/03/21(月)

アーツ千代田 3331 [東京都]

一応は「クリエイティブ・ディレクター」とされているが、どういう肩書きをつけたらよいか、困るほど、多様な活動を展開してきた小池一子の軌跡をまとめて振り返る展覧会が開催された。メインとなる内容は大きく3つに分かれ、第一部の「中間子」は、豊富な資料とともに、編集、執筆、翻訳、コピーライト、キュレーションを扱い、第二部は「無印良品」、第三部の「『佐賀町』エリア」は、伝説的なオルタナティブ・スペースの活動を記録写真やアート作品によって紹介する。後者に関しては、すでに「佐賀町エキジビット・スペース1983-2000 ─現代美術の定点観測─」展(群馬県立近代美術館、2020)でも全展覧会の記録写真を並べつつ、過去の出品作をセレクトして詳しくとりあげられたが、まさに日本現代美術の一断面になっていた(女性建築家による北方ハイタウンなどの建築展も企画している)。したがって、本展の見所はやはり第一部だろう。年譜をたどると、なんと1959年から編集を皮切りに、仕事の幅をどんどん広げていたことがわかる。そして今やメディアはインターネットが主流になっているが、雑誌やポスターなどの紙媒体がパワフルだった時代のエネルギーにあらためて感服する 。それらのデザイン密度も圧倒的に高い。なお、建築に関連する業績としては、女性建築家・デザイナーのアイリーン・グレイの伝記を翻訳したり、第七回ヴェネツィア・ビエンナーレ国際建築展2000の日本館の展示「少女都市」においてキュレーターを務めていた。



第一部「中間子」の展示風景[撮影:artscape編集部]



第三部「佐賀町」の展示風景[撮影:artscape編集部]



佐賀町エキジビットスぺース 2002年 食糧ビル解体前の様子



佐賀町エキジビットスぺース 2002年 食糧ビル解体前の様子



「佐賀町エキジビット・スペース 1983-2000 現代美術の定点観測」展 群馬県立近代美術館



「佐賀町エキジビット・スペース 1983-2000 現代美術の定点観測」展 群馬県立近代美術館



「佐賀町エキジビット・スペース 1983-2000 現代美術の定点観測」展 群馬県立近代美術館



「佐賀町エキジビット・スペース 1983-2000 現代美術の定点観測」展 群馬県立近代美術館


考えてみると、「アナザーエナジー展:挑戦しつづける力—世界の女性アーティスト16人」(森美術館、2021)など、近年、先駆的な女性のクリエイターが注目されているが、特に東京都現代美術館が好企画を連発している。例えば、「石岡瑛子 血が、汗が、涙がデザインできるか」展(東京都現代美術館、2020-2021)は、グラフィックから始まり、舞台・映画美術に展開した半世紀の軌跡をたどったものだ。まさに時代の顔となった1960-70年代の広告やポスターの仕事、そしてアメリカに拠点を移してからの新しい活動は、2次元から3次元、そして時間芸術への展開と重なる。「山口小夜子 未来を着る人」展(2015)では、1970年代に日本から登場したミューズとしての活動と、モデル以外のアートとの積極的な関わりを回顧するものだった。そして「Viva Video! 久保田成子展」展(2021-2022)では、渡米してフルクサスで活動し(《ヴァギナ・ペインティング》は痛々しくもあるが)、ナム・ジュン・パイクとともにヴィデオ・アートの黎明期を駆け抜け、マルセル・デュシャンへの参照を経由し、独自の映像インスタレーション表現=「ビデオ彫刻」に到達した経緯を明らかにする。2000年代に入り、ジョン・レノンの妻ではなく、アーティストとしてのオノ・ヨーコの再評価が進んだが、ようやくその裾野がさらに広がりはじめた。

関連レビュー

佐賀町エキジビット・スペース 1983–2000 ─現代美術の定点観測─|村田真:artscapeレビュー(2020年12月01日号)

2022/01/30(日)(五十嵐太郎)

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小田原のどか 個展「近代を彫刻/超克する─雪国青森編」ほか

青森県は感染拡大のため、美術館を閉じていたが、学芸員への取材をかねて、展示を見学させてもらった。まず「小田原のどか 個展 近代を彫刻/超克する─雪国青森編」(青森公立大学 国際芸術センター青森[ACAC])は、リサーチをもとにした鋭い切れ味の内容である。すなわち、大熊氏広による《雪中行軍記念像(歩兵第5連隊遭難記念碑)》/工部美術学校/油粘土の系譜と、高村光太郎による《乙女の像》/東京美術学校/紙粘土の系譜を対比しつつ、地方から近代彫刻史の枠組を検証し、思想的な課題としてパブリックな彫刻を読む彼女の著作『近代を彫刻/超克する』(講談社、2021)とも連動していた。それだけにとどまらず、さらに複製(同形二体の乙女像)、彫刻のアイデンティティ(土産物の劣化した縮小版)、義手(八甲田雪中行軍の負傷者)という別の視点への可能性にも拓く。ところで、狙ったわけではないかもしれないが、大雪でほとんど埋まった中庭の展示は八甲田山の悲劇を想起させ、墓を模した黒いオブジェ群の並び方が、建築空間に沿って湾曲していたことは、直線的な配置になりがちなモニュメントへの批評のようにも思われた。


《雪中行軍遭難記念像》台座のヴォリューム



奥のショーケースの中は《乙女の像》、手前台座の上はそのミニチュアの土産物



雪に埋もれたACAC



湾曲した空間にそって並ぶ墓型のオブジェ


別の部屋で同時開催していた、壁に大量のコギンを陳列する「大川亮コレクション─生命を打ち込む表現」展も、慶野結香の担当である。これは郷土の工芸に着想を得て、津軽で農閑期の副業品を生みだそうとした大川の収集物を紹介するもので、彼は木村産業研究所(日本に帰国した前川國男の最初の仕事)の創立にも関わったという。東京国立近代美術館の「柳宗悦没後60年記念展 民藝の100年」展とあわせて見ると興味深い。


「大川亮コレクション─生命を打ち込む表現」展 展示風景


青森県立美術館もかなり雪で埋もれていたが、奥脇嵩大のキュレーションによる、すごいタイトルの展覧会「美術館堆肥化計画2021」は、美術館が文字通り、外に飛びだす企画だった。すなわち、「旅するケンビ」という目的を掲げ、先行して津軽各地の商業施設や博物館において地域資源をもとに小さな展覧会を開催し、それらの企画の成果が美術館において合流する。テーマは多岐にわたり、石器と似た形状をもつが、実際は自然に生成した礫=「偽石器」、プロの写真家ではない農家の竹内正一と外崎令子が撮影した十三湖干拓の記録写真、ラテン語の「耕す」を語源とする「colere-ON」の活動、堆肥に関わる糞やミミズの研究者の紹介などだ。つまり、生活や地域をアートにつなぎなおす企画である。なお、訪問時はちょうど設営中だったのが、アート・ユーザー・カンファレンスによる太陽や空気を題材とし、壮大な発想にもとづくコンセプチュアルな作品である。



「美術館堆肥化計画2021」展 十三湖干拓の記録写真



「美術館堆肥化計画2021」展 糞やミミズの研究


小田原のどか 個展「近代を彫刻/超克する─雪国青森編」

会期:2021年12月25日(土)~2022年2月13日(日)
会場:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)
(青森県青森市合子沢字山崎152-6)

大川亮コレクション

会期:2021年12月25日(土)~2022年2月13日(日)
会場:青森公立大学 国際芸術センター青森(ACAC)

美術館堆肥化計画2021成果展示

会期:2022年3月22日(火)〜2022年6月26日(日)
会場:青森県立美術館
(青森県青森市安田字近野185)

2022/02/12(土)(五十嵐太郎)

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大阪中之島美術館「Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─」展ほか

[大阪府]

大阪の新型コロナの感染者数が多かったので、準備室が設置されてから約30年、ようやく迎える開館がさらに延期になるのではと心配していたが、杞憂に終わった。1月にはすぐ美術館の長期閉館を決定した青森県とは違う対応である。実はオープン前に完成した建築の内部を一度見学する機会があったが、やはり大勢の来場者が入り、長いエスカレータや階段による人の動きや、大空間の吹き抜けのスケール感がわかった状態を体験するのが、ダイナミックでいい。立体的に人が行き交うさまは交通施設のようでもあるが、《大阪中之島美術館》(2022)は都市型の新しい巨大美術館として誕生した。設計を担当したのは、コンペで巨匠や大手設計組織を破り、最優秀案に選ばれた遠藤克彦である。次世代につながるという意味で、ようやく1970年生まれの建築家が、これだけ大きな公共建築を手がけたことも祝福したい。黒い直方体が浮かぶ外観だが、内部は外への眺望が効果的に計算されている。そしてフランスの現代建築を想起させる艶をもったデザインだ。


《大阪中之島美術館》外観



《大阪中之島美術館》5階



《大阪中之島美術館》吹き抜け



大阪中之島美術館 開館前の展示の歴史


開館記念の「Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─」は、凄いヴォリュームだったが、ただ作品を並べるだけでなく、実業家の山本發次郎らのコレクションをもとにした作品収集の経緯もあわせて紹介している。もちろん、まずは大阪に関わりのある近現代の作品が見所なのだが、ほかに特徴的なのは、1992年から家具や食器などを含むデザインのコレクションも進めていたこと。そして閉館した大阪のサントリーミュージアムから預かったポスターコレクションも充実していた。メインの展示室は上部の4、5階だが、2階の多目的スペースでは、一般から提供されたホームビデオをもとに林勇気らが参加したホームビデオ・プロジェクト「テールズアウト」も開催している。また隣接する国立国際美術館の「感覚の領域 今、『経験する』ということ」展では、コロナ禍が世界共通の体験だと再認識させる大岩オスカール、壁に囲まれた空間ごと作品環境を創出する名和晃平を楽しみ、美術館の壁が動く(!)、いや来場者が押して動かす飯川雄大の作品に驚く。そして京阪電車 なにわ橋駅のアートエリアB1の鉄道芸術祭vol.10「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」は、contact Gonzoとdot architectsが共同制作し、ゆるいSF映画の撮影所兼映画館兼メイキング展示を設置していた。大阪の中之島が、現代アートの拠点として盛り上がっている。


「Hello! Super Collection 超コレクション展」の最後は倉俣史朗《ミス・ブランチ》



飯川雄大「デコレータークラブ」(2022)



鉄道芸術祭vol.10「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」展示風景


Hello! Super Collection 超コレクション展 ─99のものがたり─

会期:2022年2月2日(水)~3月21日(月・祝)
会場:大阪中之島美術館
(大阪府大阪市北区中之島4-3-1)

感覚の領域 今、「経験する」ということ

会期:2022年2月8日(火)~5月22日(日)
会場:国立国際美術館
(大阪府大阪市北区中之島4-2-55)

鉄道芸術祭vol.10「GDP THE MOVIE〜ギャラクティック運輸の初仕事〜」

会期:2021年11月20日(土)~2022年2月27日(日)
会場:アートエリアB1
(大阪府北区中之島1-1-1 京阪電車なにわ橋駅地下1階)

関連レビュー

クリエイティブアイランド中之島、大阪中之島美術館|五十嵐太郎:artscapeレビュー(2021年11月15日号)

2022/02/13(日)(五十嵐太郎)

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金沢 国立工芸館「めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン」ほか

[石川県]

国立工芸館の「めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン」は、小規模ながら、京都国立近代美術館のコレクションも活用しつつ、海外への影響(エミール・ガレ、ルネ・ラリック、ドーム兄弟など)と日本での受容(当時、ヨーロッパを訪れた浅井忠や神坂雪佳、杉浦非水による広告のモダンなグラフィックなど)、そして自然をモチーフとした現代工芸(松田権六や田口善国など)をコンパクトに紹介していた。カタログは制作されていなかったが、展示を理解するための11の扉を記した無料配布のリーフレットも充実している。ちなみに、以前、パリのギメ東洋美術館の「明治」展で見た日本からの輸出品は、かなり装飾過多であり、西欧のジャポニスムとは少し違う。


「めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン」ガレとドーム兄弟の作品 国立工芸館



杉浦非水の広告の展示 国立工芸館


向かって右隣の石川県立美術館における常設展示の小特集「日本画のてびき─近代から現代へ─」は、「日本画」とは何かを改めて問う企画だった。そこでフェノロサによる1872年の講演「美術真説」における「Japanese painting」の訳語として「日本画」の言葉が初めて登場したことから、彼が洋画に対する優位性として指摘した5つの特徴(非写実/陰影なし/輪郭/淡白/簡潔)を振り返る。そして下村正一や安嶋雨晶については、それぞれの具象的な過去作との比較を通じて、1950-60年代の抽象化の影響を確認し、作風が大胆に変化したことを示す。日本的な絵画をたどると、英語の訳語や近代絵画の受容が埋め込まれている。

《石川県立歴史博物館》(1986)と《加賀本多博物館》(2015)は、煉瓦造の旧兵器庫3棟(1909、1913、1914)をそれぞれ異なる構法によって、補強しつつリノベーションした実験的なプロジェクトだった。外観はいずれも原形とあまり変わらないが、内部は鉄筋コンクリート造、鉄骨造、そして斜めのバットレス補強という3種類の手法を用いている。歴史博物館の近現代のパートでは、三八豪雪の大変さや、宝塚のスキームをまねて、かつて内灘に存在した粟ヶ崎遊園などを紹介していた。昭和のちゃぶ台はここにもあり、博物館の定番と化している。また明治期に輸出用の工芸を育成した金沢の銅器会社もとりあげたが、これは県美術館の常設展示と重なっており、多面的にその位置づけが確認できるだろう。


石川県立美術館



国立工芸館から《石川県立歴史博物館》の方を見る



《加賀本多博物館》



住宅団地とちゃぶ台の展示 石川県立歴史博物館



銅器会社の展示 石川県立歴史博物館


めぐるアール・ヌーヴォー展 モードのなかの日本工芸とデザイン

会期:2021年12月25日〜2022年3月21日(月)
会場:国立工芸館
(石川県金沢市出羽町3-2)

日本画のてびき─近代から現代へ─

会期:2022年1月27日(木)〜2022年2月20日(日)
会場:石川県立美術館
(石川県金沢市出羽町2-1)

石川県立歴史博物館

(石川県金沢市出羽町3-1)

加賀本多博物館

(石川県金沢市出羽町3-1)

2022/02/15(火)(五十嵐太郎)

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開館40周年記念展 扉は開いているか ─ 美術館とコレクション1982-2022

会期:2022/02/05(土)~2022/05/15(日)

埼玉県立近代美術館[埼玉]

コロナ禍では海外から作品を借りにくい状況が続くこともあって、あらためて美術館が所有するコレクションの価値が注目されていると思うが、埼玉県立近代美術館は開館40周年というタイミングが重なり、館そのものの歩みや活動を紹介する展覧会が開催された。したがって、作品だけでなく、関連する資料も陳列し、同館の歴史、収蔵・企画の経緯や方針(埼玉県立博物館からの移管、瑛九のアーカイブ、小村雪岱の挿画や舞台美術、地域の作家、1970年代というテーマ)、そして設計者である黒川紀章にスポットを当てたものである。例えば、初代館長の本間正義の文章(「展示ということ」の連載など)、田中一光がデザインした開館記念展のポスター、黒川のスケッチやドローイング、美術館の基本設計図、模型、工事記録写真、地質標本、「1970年─物質と知覚 もの派と根源を問う作家たち」の展示プラン図や会場記録写真などからは、美術館の背景を知ることができるだろう。なお、黒川は1980年代にいずれも公園の中に立地するポストモダンの美術館三部作を手がけたが、最初が埼玉であり、その後に《名古屋市美術館》(1988)と《広島市現代美術館》(1989)が続いた。


「扉は開いているか ─ 美術館とコレクション1982-2022」展 瑛九の資料展示



「扉は開いているか ─ 美術館とコレクション1982-2022」展 小村雪岱の舞台装置原画



「扉は開いているか ─ 美術館とコレクション1982-2022」展 ナイジェル・ホールの「サイタマ・ミュージアム・プロジェクト」(エスキース)



「1970年─物質と知覚 もの派と根源を問う作家たち」の会場構成など 埼玉県立近代美術館


埼玉県立近代美術館の特徴としては、インスタレーションを試みた田中米吉や川俣正、コインロッカーに作品を設置した宮島達男など、歴代のアーティストが積極的に建築に介入したことも挙げられるだろう。特に田中の《ドッキング(表面)No.86-1985》(1986)は、建築の格子パターンとそろえることで同化しつつも、ヴォリュームとしては直方体が斜めに貫入し、建築と一体化していた。これらは建築が完成した後のサイトスペシフィックな作品だが、奈義町現代美術館(1994)や金沢21世紀美術館(2004)のコミッションワークに継承されるものとして位置づけられる。ともあれ、埼玉県立近代美術館が地方のミュージアムが果たすべき役割を切り開いていたことがうかがえた。

大宮の住宅地に立ち寄り、今年45歳で急逝した柄沢祐輔の代表作、《s-house》(2013)を外から見学した。フォルマリスティックなデザインと大胆なガラス張りの外観をもつ住宅として話題になったものである。さすがに現在は透明な状態では使われていなかったが、以前、ゼミ合宿で見学を依頼していたが、都合がつかず、ようやく訪れることができた。彼は話していたとき、すごい速度で矢継ぎ早にさまざまなアイデアを出していたことが記憶に残る。もっと多くの建築を実現して欲しかった。

2022/02/17(木)(五十嵐太郎)

2022年03月15日号の
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