2024年02月15日号
次回3月1日更新予定

artscapeレビュー

ハン・ジェリム『非常宣言』、パク・デミン『パーフェクト・ドライバー』ほか韓国映画・ドラマ

2023年03月01日号

あまり日本では話題にならなかったが、航空パニック×バイオテロのジャンルを掛け合わせたハン・ジェリム監督の映画『非常宣言』(2022)は、ハリウッド映画と比べてまったく遜色ない傑作だった。すでに航空パニックものはさまざまな作品が存在するが、ここまで深い絶望を感じさせるのは初めてであり、特に終盤において乗客が下すある決断は前例がなく、衝撃的だろう。難点をあげるとすれば、いまいちとらえどころがない犯人像か(仕かけたテロの行方を見届けない映画『機動警察パトレイバー the Movie』[1989]の帆場暎一みたい?)。だからこそ、その存在はサイコで不気味なのだけど。

同じく1月に封切りされた『パーフェクト・ドライバー」(2020)は、とにかくカッコいい。韓国映画はすでに幾つも女性アクションの傑作を生みだしているが、『ベイビー・ドライバー』(2017)+『グロリア』(1980)的に展開する本作品も仲間入りだろう。個人的にラストは三重に予想を裏切られた。『シュリ』(1999)を鑑賞したとき、韓国でこんなスリリングなスパイ・アクション映画がつくれるのかと驚いたが、もうそれが当たり前になっている。

建築に注目すると、集合住宅は実際に都市風景の中で林立しており、韓国の映像の得意分野だろう。昨年末に日本で公開されたマンション・ディザスター・パニック『奈落のマイホーム』(2021)は、突然、巨大な陥没穴が生じ、マンションが地下500mに転落していく。冒頭は群像紹介でややだれるが、落下が始まった後はありえない事態だけに、特撮技術の迫力が光る。そしてサバイバルのなかに笑いの要素もあり、ラストは感動も起こさせる奇跡の作品だった。韓国のドラマやNetflixのオリジナル映画では、『#生きている』(2020)や『Sweet Home─俺と世界の絶望─』(2020)など、集合住宅を舞台とするゾンビものの名作が続く。



ロッテワールドタワー ソウルスカイ展望台から撮影したマンション群



特筆すべきは、感染対策のために、外部から閉鎖されたロックダウン的な状況下の人間関係を嫌らしく表現した『ハピネス』(2021)である。これは途中で正気に返る近年の傾向を入れつつ(『CURED』[2017]など)、コロナ禍と共有する問題を接続させ、そこにマンション内格差のテーマを加え、極限状況における人間の怪物化を描く。もちろん、ウイルスが引き起こす症状よりも、利己的な人間の心の方が恐ろしい。


『非常宣言』公式サイト:https://klockworx-asia.com/hijyosengen/

『パーフェクト・ドライバー』公式サイト:https://perfectdriver-movie.com

2023/01/15(日)(五十嵐太郎)

2023年03月01日号の
artscapeレビュー

文字の大きさ