2024年02月15日号
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artscapeレビュー

2023年コレクション展I「特集1 虚実のあわい」(前期)

2023年03月01日号

会期:2023/01/21~2023/04/09

兵庫県立美術館[兵庫県]

兵庫県立美術館の2023年最初のコレクション展として、「中国明清の書画篆刻―梅舒適コレクションの精華―」との2本立てで開催されている本展。タイトルから連想されるのは、近松門左衛門の「虚実皮膜」だ。近松の論を花田清輝が『俳優修業』(1964)で引用し、花田を慕う東野芳明ら批評家たちが同時代の虚像論を展開したことが想起された。花田は本書で、「芸というものは、実(じつ)と虚(うそ)との皮膜(ひにく)の間にあるもの也」に続く一節を引き、東洲斎写楽の役者絵を、虚と実との対立の白熱化している決定的瞬間をとらえようとしたと評する。本展の冒頭で示されていたピュグマリオン伝説は、虚が実へと変貌する物語であるが、展示を見ながら、現代美術が実に屈服しない虚の力とどのように向き合ってきたのかを考えさせられた。

最後の瞽女と言われた小林ハルを描いた木下晋の《ゴゼ小林ハル像》(1983)は、細部を緻密に描きこんだ鉛筆画であるが、写実的なリアリズムにとどまらない。木下佳通代の《UNTITLED》(1976)は、ビデオ・フィードバックを思わせるイメージのなかに複数の鑑賞者が入れ子状に配されている。ビデオ・フィードバックはナムジュン・パイクをはじめ初期のビデオ・アートの手法として知られているが、この作品はそのイメージを写真によって構成するという、見る側の想像力を刺激する仕掛けとなっている。60年代後半以降に虚像論が活発化した背景には、テレビに代表されるマスメディアによるイメージが普及したことが挙げられるだろう。木下晋と木下佳通代のアプローチはそれぞれ異なるが、作られたイメージを乗り越えていく手がかりとなる。展示の後半で紹介されていた菅木志雄《中律―連界体》(1978)、李禹煥《関係項》(1983)のように「もの派」と呼ばれた動向を虚像論のなかに置き直してみると、あるがままの世界と出会うことの回帰的ではなくラディカルな行為としての側面が見えてくる。同時開催されていた李禹煥展の補助線にもなっていた。



木下佳通代《UNTITLED》(1976)平成21年度駒田哲男・楊子氏寄贈



2023年コレクション展I「特集1 虚実のあわい」(前期)会場風景



今回の見どころと思われたのは、西山美なコ《ハ~イ わたしエリカ♡》(1992)の展示であった。少女漫画の要素から引用されたかのようなキャラクターとピンク色を前面に押し出したインスタレーション、ポスター等の印刷物は、もはや西山作品を代表するイメージとして定着している。加えて、本展では、彼女の作品のパフォーマンス性やコミュニケーションとしての側面に着目できる。『月刊漫画ガロ』に広告として掲載され、大阪市内で案内ポストカードやチラシを入れたポケットティッシュとして配布された後、テレホンクラブというデートシステムの模倣としていかに機能したかを、メモや音声テープなどから再考することができた。



西山美なコ《ハ~イ わたしエリカ♡》(1992)令和3年度 大和卓司氏遺贈記念収蔵[© Minako Nishiyama]



2023年コレクション展Ⅰ「特集1 虚実のあわい」展(前期)会場風景


公式サイト:https://www.artm.pref.hyogo.jp/exhibition/j_2301/tokushu1.html

2023/02/11(土)(伊村靖子)

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