artscapeレビュー
Artist’s Network FUKUOKA 2023 [第一部] IAFの時代
2023年03月01日号
会期:2023/02/10~2023/03/05
高架下スタジオSite-Aギャラリー[神奈川県]
横浜にあるNPO法人 黄金町エリアマネジメントセンターのギャラリーで、なぜか福岡の展覧会。しかも「第1部 IAFの時代」となっているから、2部、3部と続けていく気だ。それもそのはず、NPOのディレクターが福岡出身でIAFの代表も務めていた山野真悟氏だからね。ちなみにIAFとは1978年に山野氏らが立ち上げた芸術研究室で、インスティテュート・オブ・アート・ファンクションの略。ぼくが初めてIAFを訪れたのはちょうど40年前の冬。川俣正がIAFの協力で福岡でアパートメント・プロジェクトをやるというので見にいったのだ。確かそのときは版画教室だったと記憶する。その後、川俣の影響もあって、福岡の街を舞台にした芸術祭「ミュージアム・シティ・天神(のちに「ミュージアム・シティ・福岡」に改称)」が始まり、毎年のようにお世話になった。てな昔話は置いといて。
今回はそのIAFから巣立った5人のアーティストによる作品が展示されている。会場に入ってすぐの柱に立てかけられた救命用ボートのような黄色い立体は、牛嶋均の《ボート》。よく見ると、公園にある幼児用の滑り台をリサイクルしたもので、上部に開けた窓から非常食が見える。その奥にはロケットのようなかたちをした錆びた物体が横たわっている。これも滑り台の階段をふたつ重ねた《ミサイルもしくはロケット》という作品。廃物利用のアートだが、それだけでなく、アフリカの難民ボートやウクライナの戦場を思い起こさせもする。
奥の壁には大小の絵画が10点。大きめのキャンバスには母子像が描かれているが、母の姿は手や身体の一部しか見えず、子どもの身体が白いオーラのようなものに包まれ聖人のように強調されている。これは脳障碍をもつ息子のリハビリを描いた「障碍の美術」シリーズで知られる和田千秋の作品。画中画として息子の描いた絵も描き込んでいるが、息子の奔放な絵を画家の父が写実的に模写しているのが微笑ましい。これらの大きめのキャンバスに付き添うように並べた小さめのキャンバスには、回転するような十字形が描かれている。「違い十字」シリーズといい、なにを意図しているのかは定かでないが、大きいキャンバスとセットになっているので、護符のような役割を果たしているのかもしれない。
受付を挟んだ奥のスペースにも作品があるので見にいくと、ガラス越しに5、6点の平面作品が向こう側を向いて立っている。「こちらは裏側です。反対側からご覧ください」との表示があるので、いったん外に出て向こう側に回ってみると……ネタバレになるので書かないが、あ、やられたと思った。これは坂崎隆一の《surface》(アルファベットは鏡文字)というインスタレーション。両サイドがガラス張りの空間を実にうまく使っている。
公式サイト:https://koganecho.net/event/20230210_0310_iaf
2023/02/10(金)(村田真)