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部屋のみる夢─ボナールからティルマンス、現代の作家まで

2023年03月01日号

会期:2023/01/28~2023/07/02

ポーラ美術館[神奈川県]

最近尖った企画展で攻めるポーラ美術館が、なんで「部屋のみる夢」みたいなドメスティックでファンシーなテーマの展覧会を企画したのか不思議に思ったが、かれこれ3年に及ぶコロナ禍で世界中の人たちが部屋に閉じこもらざるをえなかった云々と聞くと、なるほどわかったようなわからないような気分で納得したりもする。もちろん理由はそれだけでなく、新たに収蔵したヴォルフガング・ティルマンスと草間彌生の作品を見せたかったからに違いない。同展はティルマンスの室内写真10点と、草間のベッドをモチーフにした立体作品のお披露目でもあるのだ。

ティルマンスの「あふれる光」(2011)は、自身のアトリエを撮った4点のシリーズ。どれもがらんとしたアトリエ風景だが、夕暮れ時なのか窓からオレンジ色の光が壁に映って、まるで光の絵が飾られているようにも見える。しかも4点ともサイズを微妙に変えて見る者の目をくすぐる。《スカイブルー》(2005)は中央に文字どおりスカイブルーの矩形が写った写真で、中庭から空を見上げて撮ったもの。《窓/カラヴァッジョ》(1997)はややパースのついた四角い窓枠を写した作品だが、なぜカラヴァッジョだろうと目を凝らしたら、窓に小さなカラヴァッジョの絵葉書が立てかけられていた。イケズやなあ。でもこういうの好き。

草間彌生は飛ばして、ボナール、マティス、ヴュイヤールの色彩に目を洗われる。でもそれ以上によかったのは、佐藤翠+守山友一朗と高田安規子・政子という2組の現代アーティストの作品だ。佐藤翠は洋服や靴の並んだクローゼットをサラリと描いた絵で知られるが、そのパートナーでもある守山友一朗は長年パリを拠点にしてきたため、今回初めて知った。守山は食卓や花などアンチームなモチーフを、より緻密に色彩豊かに描いている。注目すべきはふたりの共作で、テーブルを中心とした室内風景を描いた《Rose Room》(2022)。佐藤の滲むような筆使いと守山の細かい描写がミスマッチ(!)して、なんとも不思議な空気を醸し出している。まさに「部屋のみる夢」。

一方、一卵性双生児の高田姉妹は2点のインスタレーションを制作。ひとつは《Open/Closed》(2023)という作品で、壁2面に通常サイズのドアと12分の1サイズのドアを取り付け、その間に大から小までさまざまなデザインの鍵を64個、壁に差し込んでいる。開かない鍵。もうひとつの《Inside-out/Outside-in》(2023)は、壁一面に12分の1サイズの窓を180個開けたもの。これも窓枠のデザインは多彩で、しかもご苦労なことにすべて窓から外の景色が見えるようにしつらえている。ということは、もともとガラス張りだったところに仮設壁を取り付け、180個の穴を開けて窓枠をはめ込んだのだ。この日ちょうど雪が降ったので、小さな窓越しに雪景を見ることができた。これはそのまま残して常設作品にしてほしい。



高田安規子・政子《Open/Closed》(部分)展示風景[筆者撮影]



高田安規子・政子《Inside-out/Outside-in》(部分)展示風景[筆者撮影]



公式サイト:https://www.polamuseum.or.jp/sp/interiorvisions/

2023/01/27(金)(内覧会)(村田真)

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