artscapeレビュー
FACE展2023
2023年03月01日号
会期:2023/02/18~2023/03/12
SOMPO美術館[東京都]
11回目を迎える公募展、今回は1,064人の応募作品から81点の入選作品を展示。そのなかからグランプリはじめ9点の受賞作品が選ばれた。入選倍率は約13倍、そのうち受賞倍率は9倍という狭き門。さぞかし秀作が集まっていると思いきや、漫画やイラストみたいな薄っぺらい絵や、どこかで見たことあるような図柄、子どもが描いたような拙い作品が目につく。あれ? こんなもん?
確かに野口玲一審査員長がカタログのなかでいうように、「ここには美術史が語ってきた時代様式も、前衛のグループも存在しない。メインストリームに乗る必要も、時代遅れを気にすることもない。描くことにおいて何でもありの自由な選択肢を手に入れているのだ」とは思うけど、それで果たして「絵画についていま、私たちは何と豊かな世界を手に入れたのだろう」といえるだろうか。学芸会ならいざ知らず、100号前後の大画面に油絵具なり岩絵具なりを使って描くのだから、曲がりなりにも後世に残るような普遍的な絵画を目指すもんじゃないの? 豊かになったどころか、むしろ薄く、貧しく、刹那的になった気がするんだけど。
と思ったら、藪前知子審査員のコメントがしっくりきた。若い世代の作家たちは、ひとつの選択肢として「今この現在の瞬間における、鑑賞者との共感のためのプラットフォームとして絵を描く」というのだ。なんとなく感じてはいたが、改めてうなずいた。そうか、彼らは絵画に普遍性なんか求めていないんだ。紙に落書きでもするように、いや、SNSで発信するように描いているのか。それで「いいね!」をもらえればいいのか。もはや絵画に対する考え方というか、構えが違うらしい。そう思ってカタログで出品作家の生年を調べてみたら驚いた。入選者の最年少が16歳の現役高校生というのもすごいが、最年長は74歳の独立美術協会会員で、かつて安井賞展にも入選したことがあるというからびっくり。この公募展には年齢制限がないんだね。ちなみに今回は8歳から87歳までの応募があったという。「FACE展」は懐が深い。
いやそういうことではなく、作家の生年と作品図版を比べてみたら、年齢と絵に対する構えにはほとんど相関関係がないらしいことがわかって愕然としたのだ。マンガチックなドローイングが中年男の作品だったり、渋い日本画の作者が21世紀生まれだったりして、まさに野口氏のいうとおり。なんだかぼくだけが時代についていけてないだけなのかもしれない。がっくし。でも藪前氏が個人賞に選んだ柳澤貴彦の《bonfire》をはじめ、受賞作品の多くが構築性の高い作品なので少し安心した。
ほかに言及すべき作品はいくつかあるけど、1点だけ触れたい。桃山三の《花兜─ただ春を乞う》だ。画面全体が花兜を被った幼児たちや色鮮やかな花の装飾で丁寧に、オールオーバーに覆われている。まずそれだけでも目を惹くが、少し離れてみて驚いた。背景に赤茶けた戦車が浮かび上がってきたからだ。花兜の幼児たちが戯れているのは廃戦車の上なのだ。そもそも兜は戦いで使う武具であり、これが子どもまで犠牲に巻き込む戦争に対する抵抗の表現であることはタイトルからも想像できる。「共感のためのプラットフォーム」はこういうものであってほしい、とジジイは思うのだ。
公式サイト:https://www.sompo-museum.org/exhibitions/2022/face2023/
2023/02/17(金)(内覧会)(村田真)