2024年02月15日号
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artscapeレビュー

レオポルド美術館 エゴン・シーレ展 ウィーンが生んだ若き天才

2023年03月01日号

会期:2023/01/26~2023/04/09

東京都美術館[東京都]

4年前に開かれた「ウィーン・モダン クリムト、シーレ 世紀末への道」展で、クリムトとともにシーレ作品が何点か紹介されたが、まとまった「エゴン・シーレ展」が開かれるのは約30年ぶりだという。といっても出品作品115点中シーレ作品は半分にも満たない50点、うち油彩は半分以下の22点。短命だったから作品数が限られているのは仕方がないが、シーレ・コレクションでは世界最大のレオポルド美術館から借りてきた作品が大半を占めるので、これが日本で望みうる最大規模の「シーレ展」だろう。

シーレのほかには、クリムト、コロマン・モーザー、リヒャルト・ゲルストル、オスカー・ココシュカら同時代のウィーンを生きた芸術家の作品も並ぶが、やはりクリムトの存在感が圧倒的。シーレが学生時代に描いた《装飾的な背景の前に置かれた様式化された花》(1908)などは、ジャポニスムの色濃いユーゲントシュティール様式のクリムト風絵画、といった趣だ。しかしその2、3年後、シーレは早くも表現主義的なスタイルを見せ始める。暗く濁った色彩で自らを描き出す《自分を見つめる人Ⅱ(死と男)》(1911)、《叙情詩人(自画像)》(1911)は、絢爛豪華なクリムトのスタイルとは一線を画している。まだ20歳そこそこの作品だ。

クリムトもこのころから表現主義的になっていくが、師匠が色彩の塗りを重視していたのに対し、シーレの真髄があくまで線描にあったのは、晩年の油彩画《横たわる女》(1917)、《しゃがむ二人の女》(1918)にも明らかだろう。モチーフが明確な線で輪郭づけられ、色彩は余白を埋めるだけの役割しか果たしていないからだ。

ところで、シーレの生きた20世紀初めの20年間といえば、フォーヴィスムからキュビスム、ドイツ表現主義、イタリア未来派、ロシア構成主義、デ・ステイル、ダダに至るまでヨーロッパ中でモダンアートが花開いた時期。ところがシーレは表現主義には触れたものの、キュビスムにも未来派にも走らなかった。言い換えれば、動きや時間を表わす新たな視覚表現には関心を示さず、ひたすら人間の身体や内面描写にこだわり続けた。それはもちろん彼の個性によるものだが、しかしウィーンが芸術の都パリから遠く離れた田舎だったこと、いまだ19世紀末のユーゲントシュティールから抜け切れずにいたことも無関係ではないだろう。

だとすれば、クリムトが亡くなり、第1次大戦も終わった1918年がシーレの新たな出発の年になるはずだったが、不幸にも同じ年にシーレはわずか28歳で世を去ってしまう。そのころすでにカンディンスキーやモンドリアンは抽象絵画を始め、デュシャンはレディメイドのオブジェを制作していたことを考えると、彼らより年下のシーレはやはり時代遅れの画家だったのかと思ったりもする。という見方自体が、あまりにモダニズムに偏っているかもね。


公式サイト:https://www.egonschiele2023.jp/

2023/01/25(水)(内覧会)(村田真)

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