artscapeレビュー
バンコクのショッピングモール
2023年04月01日号
[タイ、バンコク]
12年ぶり、3回目のバンコクは、コロナ禍の入国ハードルがないことと、浅子佳英による近年のショッピング・モール報告が気になって訪れた。したがって、これまでと違い、寺院はほとんど見学しなかった。到着した初日は、大雨だったため、屋外を歩かなくてもすむように、丸一日かけて、サイアム・センターやターミナル21など、スカイトレインの駅と連結する商業施設をいくつかまわり、なんと2万5千歩も歩いた。美術館をはしごしても、なかなかこの数字には到達しない。外部なき都市空間、すなわちひたすら巨大な室内空間に飲み込まれるような体験だった。ともあれ、エムクオーティエやマーブンクロンセンター(MBK)など、駅とモールのあいだに外部空間が存在する場合、透明な折りたたみ式の構築物を広げることによって、濡れずにアクセスできる。またスカイトレインが高架であるため、ショッピング・モールの基準となるフロアは基本的に2階だ。豪雨や洪水などにより、チャオプラヤー川の水位が上昇し、バンコクがときどき浸水することを踏まえれば、合理的な計画だろう。
こうしたショッピング・モールが郊外ではなく、都心で発達するのは、もちろん熱帯の環境ゆえに、冷房が効いた空間が求められるからだろう。タイ、インドネシア、ベトナムなどの東南アジアでは、しばしばモダニズムのピロティが風通しがよい日陰として活用される事例も目撃してきたが、やはり空調の方が快適なのだ。こうした駅直結モール群は、ドバイでも観察され、しかも屋内スキー場や巨大な水槽を備えるなど、凄まじい進化を遂げているが、まわりは砂漠に囲まれた街であり、日本とはあまりに状況が違う。だが、バンコクは電線が多い、ごちゃごちゃした街並みのアジア的な環境ゆえに、日本と比較しやすい。それだけに、ありえたかもしれない未来を想像し、近年の東京における再開発デザインの遅れを痛感した。空間の大きさ、ダイナミックな吹き抜け、プランやテーマの多様性、力が入ったデザイン、そして元気であること。いずれの点においても、バンコクの方が東京に優っている。バンコクでは、中国、台湾、シンガポールの商業施設などで試みられた手法もとり入れているが、それらを総合しつつ、実験的な空間にも挑戦している。
2023/02/16(月)、18(水)、19(木)(五十嵐太郎)