artscapeレビュー

近江八幡の建築

2023年04月01日号

[滋賀県]

最寄りの駅からタクシーで10分ほどの《ラコリーナ近江八幡》を訪れた。もちろん、藤森照信の建築が存在しているからだが、その後、土塔や銅屋根の本社など、エリア内にだいぶ藤森建築が増えており、1月にはバームファクトリーがグランドオープンしたばかりで、今後もさらに拡張するらしい。新しい施設は、バウムクーヘンを生産する工場を見学し、そこで食べたり、購入できたりする場であり、長蛇の列が生まれていた。この賑わいを見ると、大成功のプロジェクトであり、リング状の回廊、棚田、ワイルドなランドスケープ、フードコート、ギフトショップなども備え、まさにジブリ的な建築群による食のテーマパーク状態に成長していた。それにしても、藤森建築は、一般人に刺さる表層の素材感は徹底的だが、逆に「空間」はない。また不思議な造形だが、大胆な構造など、テクトニックで勝負するタイプでもない。建築家による建築家のためのデザインとは違う。ある意味で潔い態度かもしれないが、そのことによって圧倒的な人気を獲得していることは興味深い。



《ラコリーナ近江八幡》




《ラコリーナ近江八幡》


近江八幡はおそらく学生のとき以来であり、かなり久しぶりの再訪だった。商家などの古い街並みがよく残るなか、ウィリアム・メレル・ヴォーリズが定住したことから、郵便局、教会や学校の関連施設、住宅、病院など、彼の手がけた近代建築群が数多く点在しており、魅力的な風景を形成していることに改めて感心する。確実に街の個性的なイメージをつくりだしており、建築家冥利につきる仕事だろう。なお、《ヴォーリズと少女の銅像》も2003年に設置された。六角塔屋をもつ《白雲館(旧八幡東学校)》(1877)も修復され、立派なランドマークだった。また出江寛による《かわらミュージアム》(1995)は、装飾や構成が凝ったポストモダン建築であり、展示の内容も充実している。特に余白だらけの二階が、贅沢な空間の使い方だった。これは現在の安普請が重視される風潮なら、批判されそうな建築だが、デザインの密度は高く、きちんと残せば、街の資産になるだろう。ヴォーリズの建築だって、決して安いものをつくったわけではなく、当時としては高価だが、長く維持することで価値を高めたものである。



ヴォーリズ設計の近江兄弟社学園《ハイド館》




ヴォーリズ設計の郵便局




ヴォーリズと少女の銅像




《白雲館(旧八幡東学校)》




《かわらミュージアム》


2023/02/25(土)(五十嵐太郎)

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