artscapeレビュー

小川佳夫展

2023年04月01日号

会期:2023/02/20~2023/03/11

ギャラリーQ[東京都]

ほぼモノクロームに近い下地の絵具の上に、ペインティングナイフでサッと、あるいはサッサーッと勢いのあるストロークで絵具を塗りつけている。地の色は決まっていないが、何色も混ぜたり重ね塗りしたりしているせいか分厚く、刷毛目が残り、独特のニュアンスが感じられる。その上に塗る絵具は下地とは明暗が逆で、乾いていない下地を抉って下層の絵具を露出させている場合もある。ストロークは不定形で一振りか二振り程度だが、どことなくひらがなを想起させ、書に見えないこともない。

あえて似ている作品を探せば、李禹煥の1980年代の〈線より〉か。しかし李は乳白色の地に群青でストロークを描くため、地と図の主従関係が明白で、どこか禅画を思わせるのに対して、小川は地の存在感が強いうえ、ストロークも線描というより面描というべき太さのものもあるため、地と図が対等に近い関係にあるように見える。一見、感覚的に思えるストロークも、実は入念に色彩や形態を考え抜いているのではないか。最近はイラストまがいのマンガチックな絵や、キーワードを入力するだけで画像が出てくるAI絵画などがはびこるなか、久々に絵画を見る喜びを伝えてくる。絵を見る喜びとは、それを描く人の喜びに共振するだけでなく、作者の苦悩をも同時に分かち合うことのできる贅沢で豊かな体験だと思う。


展示風景[写真提供:ギャラリーQ]



公式サイト:http://www.galleryq.info/exhibition2023/exhibition2023-007.html

2023/03/11(土)(村田真)

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