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弓指寛治 “饗宴”

2023年04月01日号

会期:2022/11/23~2023/03/21

岡本太郎記念館[東京都]

南青山にある岡本太郎記念館は、太郎のパートナーだった敏子さんが太郎の死後その住処を改装して一般公開し、初代館長を務めた場所。その記念館で、2018年の岡本太郎現代芸術賞展で岡本敏子賞を受賞した弓指が個展を開くことになったとき、敏子の目線で太郎を見返してみることを思いついたのは至極真っ当なアイデアといえるだろう。

日常生活を過ごす敏子の姿を捉えた絵もあるが、ベッドでくつろぐ太郎を足から見上げたり、スキーで先を行く太郎が前方で待つ姿を描いたり、敏子ならではの視点がユニークだ。絵の稚拙さは否めないが(ヘタウマというよりヘタヘタ)、でも相手が岡本太郎だから許せるというか、むしろ稚拙さがほのぼのとした味わいを醸し出しているのも事実。また弓指の絵の合間に、後ろ向きの《太陽の塔》のレプリカや太郎自身の絵のほか、「わたくしは太郎巫女なの」といった敏子の言葉が挟まっているのもいい。なかには「俺が太郎で無くなったら どうしよう」「その時はわたくしが 殺してあげる」という並々ならぬ関係を示唆する言葉もある。

もうひとつの部屋では、《太陽の塔》と同時期にメキシコで制作された超大作壁画《明日の神話》にまつわる作品を展示。完成後30年以上行方不明になっていたこの壁画が2003年に発見され、それを日本に移送するのが敏子の最後の仕事になった。しかしあまりに巨大すぎるのでそのままでは運べず、いくつかに分割することになったが、そのときこぼれ落ちた8千個にも及ぶ絵のカケラを修復家の吉村絵美留氏がすべて保管し、日本で元通り修復したという。その破片を弓指は一つひとつ色違いの付箋紙に描いて壁中に貼り付けたのだ。敏子はこの壁画を日本で見ることなく2005年に急逝。壁には付箋紙に混じって、「敏子の棺の中にはメキシコから持ち帰ったばかりの赤色のカケラを入れた」との言葉も。太郎愛と、それ以上の敏子愛に貫かれた展覧会。


公式サイト:https://taro-okamoto.or.jp/exhibition/弓指寛治-饗-宴/

2023/03/08(水)(村田真)

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