artscapeレビュー

せんだいデザインリーグと卒計イベント

2023年04月01日号

[宮城県]

筆者が学部生だった頃、卒業設計の最優秀というのは、ただ結果のみが発表されるもので、それを決めた経緯や議論、あるいは講評などは一切示されなかった。しかし、90年代からDiploma× KYOTOFukuoka デザインリーグなどの自主イベントが登場したり、在野で活躍する建築家が大学の教員に就くことが増えたことによって、卒計を講評する文化が浸透している。そして21世紀に入り、卒業設計日本一決定戦を銘打ったせんだいデザインリーグ(SDL)が始動し、各地でも類似のイベントが次々に誕生した。背景としては、一級建築士の受験資格のための学校が、大型のスポンサーとして参加するようになったことが挙げられるだろう。また伊東豊雄が設計したせんだいメディアテーク(smt)というシンボリックな建築を会場としたことも、わかりやすく、効果的だった。もっとも、今年は改修の時期にぶつかったため、仙台の繁華街にある百貨店、仙台フォーラスの7・8階を初めて展示会場として使い、ファイナルの審査のみsmtの1階を用いている。居抜きの店舗でも展示されたり、同じフロアのすぐ近くには、「もふあつめ展」(猫写真展)、ポケモンカード店、ダンススタジオなどが混在する、シュールな風景が目撃され、空きスペースが目立つ百貨店の活用事例として興味深いものになった。



せんだいデザインリーグ 作品展示 会場風景




せんだいデザインリーグ 作品展示 会場風景




せんだいデザインリーグ 作品展示 会場風景


ただし、今年も続くコロナ禍対応でもあるが、ポートフォリオ審査で出品数をあらかじめ100作品に絞るシステムゆえに、アベレージの質はあがるが、優等生的なものが増え、なんじゃこれ? という風変わりな凸凹の作品は減った。もともとSDLはアンデパンダン的な祝祭性が重要だったと思うが、この部分の魅力は大きく削がれている。また条件付きとはいえ、せっかく3年ぶりにファイナルの審査会場を公開したものの、100選に入った学生、関係者、スポンサーのみといった入場制限をかけたために空席が目立ったのは、もったいない。今回はファイナルに選ばれた作品をsmtに移動する時間を考慮し、初の審査員完全2日拘束となったが、初日のセミファイナルにえらく長い時間をかけ(通常は当日の午前のみ)、その後の飲み会でもすでに熱い討議が展開したせいか(通常は全審査が終わってから飲む)、かえって本番は最初の投票で趨勢が判明し、その後も大きな番狂わせや下剋上はなく、わりとすんなりと決まった。ただし、SDLでは価値観の対決となる審査員同士のバトルも(例えば、過去の山本理顕vs古谷誠章、石山修武vs青木淳など)、歴史に残るハイライトになっているが、今年の10選はツートップの構図にならず、熱い議論が生まれにくく、セミファイナルの方が、意見の衝突が多かった。

近年、SDLは輸送費が高額になる問題が指定されている。最初は学生によるそれぞれ自己搬入であり、本人の交通費ですんでいたが、イベントの規模が大きくなると、会場で混乱をきたしだし、輸送業者を入れざるをえなくなり、高くなったのが実情である。その後、模型破損の事件が起き、賠償金を払えというトラブルが生じたことを受け、保険料も上乗せすることになった。ただ、今年は100作品のみの展示だったので、筆者は昔のように自己搬入に戻せばよいのでは、と意見した(SDLのピーク時は500~600作品に到達)。ちなみに、これまで審査員として参加したDiploma× KYOTOやFukuoka デザインリーグなどは、150程度の作品数なので、そこまでシステム化せず、1日で全作品を見るのにちょうどいいスケール感である。イベントはあまり大きくならない方が、懇親会も可能であり、審査員と学生との意見交換も密接になる。

 

筆者は数年前からSDLのファイナルの審査員を担当しなくなったが、今年の10選で印象に残ったのは以下の通り。空間認識のフレームを独自に発見して設計手法に展開した平松那奈子の《元町オリフィス ─分裂派の都市を解く・つくる─》(審査に参加した今年のDiploma× KYOTOのDAY2でも、高い評価を獲得し、2位となった作品)と、戦火にあるウクライナを題材としてフォレンジック・アーキテクチャー的な手法を導入した村井琴音の《Leaving traces of their reverb》である。

ところで、本人に教えてもらい、気づいたのは、昔、筆者が依頼された全国設計行脚のプロジェクトを企画していたのが、当時学部生であり、今回審査員をつとめたサリー楓さんだった。ただ既存の企画にのるのではなく、学生がお金を出し合い、講評者を選び、各地をまわり、東京で展覧会を開催するというものだった。あとにも先にも、こういう独自企画を知らない。いまは与えられた器が多いけど、現状に不満がある場合、学生が自ら企画して、講評の場を創造したっていいと思う。

せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦2023 作品展示

会期:2023年3月5日(日)~3月12日(日)
会場:仙台フォーラス 7F・8F(宮城県仙台市青葉区一番町3-11-15)

せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦2023 ファイナル(公開審査)

会期:2023年3月5日(日)
会場:せんだいメディアテーク 1Fオープンスクエア(宮城県仙台市青葉区春日町2-1)

2023/03/04(土)、03/05(日)(五十嵐太郎)

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