artscapeレビュー

残間奈津子「infinity」

2023年07月15日号

会期:2023/06/03~2023/07/16

POETIC SCAPE[東京都]

残間奈津子は1982年、茨城県出身の写真家。2005年に日本大学芸術学部写真学科卒業後、作品の発表を重ねてきたが、今回の展示が商業ギャラリーでの初個展になる。

被写体になっているのは主に植物であり、さまざまな草や樹木を、分け隔てすることなく、その背景となる土壌や空なども含めて写しとっている。光や影を含めて、植物を取り巻く「空気感」をどのように取り込んでいくのかに関心があるようだ。主に自宅の庭や近所の植物公園など、身近な場所で撮影することで、自らの視覚的経験を丁寧に跡づけていこうとしており、ボケの効果を活かした画面の構成力も高度かつ完成度が高い。地道に積み上げてきた作品世界が、ほぼ形を取りつつあるように見える。

ただ、ソフトフォーカスの植物というテーマは、アメリカのテリ・ワイフェンバックのような前例もあり、それだけにこだわる必要はないのではないかとも思う。もっと多様な被写体にカメラを向けていくことで、どちらかといえば小さくまとまりがちな彼女の視覚的世界を、大きく拡張・更新していくことができるはずだ。植物のようなどちらかといえばコントロールしやすいものだけでなく、新たな何かが次々に湧き出てくるような被写体にも向き合ってほしい。可能性を感じさせる作家なので、次の展開に期待したい。


公式サイト:http://www.poetic-scape.com/#exhibition

2023/06/09(金)(飯沢耕太郎)

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