artscapeレビュー

新山清「松山にて」

2023年07月15日号

会期:2023/06/16~2023/06/28

Alt_Medium[東京都]

新山清が1969年に亡くなってからすでに半世紀以上が過ぎた。普通なら、その仕事は忘れられてしまうか、あるいは逆に固定された価値づけの範囲におさまってしまうかのどちらかだろう。だが面白いことに、新山の場合にはそのどちらにも当てはまらず、若い世代の写真家やギャラリストによって、新たな「発見」や「発掘」が続き、写真展や写真集の形で写真作品が更新され続けている。今回のAlt_Mediumの個展でも、彼の「松山時代」にスポットを当てることで、新鮮な切り口のアプローチを見ることができた。

新山清は戦前に理化学研究所に勤めていたが、敗戦後の1946年に、身辺の整理を終えて故郷の松山に戻り、1952年まで当地で過ごした。今回の展示作品は、すべてその時期に撮影されたものである。新山といって思い浮かべるのは、被写体を端正かつ厳密なプリントで定着した、造形的な意識の強い写真群である。それらは「サブジェクティブ・フォトグラフィ」を提唱したオットー・シュタイネルトにも認められたのだった。だが、今回展示された「松山時代」の写真は、どちらかといえば身辺の人物や事物をのびやかに撮影したスナップ写真が多い。むろん、彼の被写体をしっかりと捉えきったカメラワーク、卓抜な画面構成の能力は、そこでも充分に発揮されているのだが、写真を撮ること、そしてそのことを通じて新たな視点を見出したことへの歓びが、ストレートに表明されているような作品が目についた。

子息の新山洋一氏による丹念で網羅的な作品保存の営みのおかげで、新山清の作品世界が、つねに開かれた状態にあるのは、とても素晴らしいことだと思う。彼の写真には、まだまだ未知の可能性が潜んでいるのではないだろうか。


公式サイト:https://altmedium.jp/post/715092972510773248/新山清-写真展松山にて

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