2024年02月15日号
次回3月1日更新予定

artscapeレビュー

2023年07月15日号のレビュー/プレビュー

薛穎琦(セツ・ヒンキ)「光の彼岸」

会期:2023/06/06~2023/06/24

IG Photo Gallery[東京都]

薛穎琦(セツ・ヒンキ)は台湾・台中市生まれの写真家。2020年に東京綜合写真専門学校を卒業し、台湾に戻って写真家として活動するようになった。今回の展示は2021年に刊行した写真集『熠燿宵行』(東京綜合写真専門学校出版局)の続編というべきもので、台湾、および日本各地の「火まつり」を題材としている。

前作では、台南市で元宵節(旧暦1月14、15日)に行なわれる「塩水蜂(爆竹祭り)」に絞って撮影していたのだが、本シリーズでは被写体の幅が大きく広がったことで、「その光の向こう、三途の川の彼岸に、一体どんな光景があるのだろう」と問いかける彼の狙いが、よりくっきりと浮かび上がってきた。たしかに、光と音と熱を発して眩く輝き、やがては消えていく「火」は、此岸と彼岸とを結びつける象徴的な存在といえるだろう。薛は、祭礼の場における「火」のあり方を追い続けることで、日常から非日常の世界へと移行しつつある状況を丁寧に写しとろうとしている。プリントのクオリティに、まだ物足りないところはあるが、その意図は少しずつ形になりかけているように思える。

会場には、展覧会に合わせて刊行したという、同名の手作り写真集も置かれていた。そのなかに含まれていた人の群れを撮影した写真の数が、展示では少なくなっているのが少し気になった。いい作品なので、ぜひ、もう一回りスケールの大きなシリーズとして完成させていってほしい。


公式サイト:https://www.igpg.jp/exhibition/YingChiHsueh23.html

2023/06/07(水)(飯沢耕太郎)

残間奈津子「infinity」

会期:2023/06/03~2023/07/16

POETIC SCAPE[東京都]

残間奈津子は1982年、茨城県出身の写真家。2005年に日本大学芸術学部写真学科卒業後、作品の発表を重ねてきたが、今回の展示が商業ギャラリーでの初個展になる。

被写体になっているのは主に植物であり、さまざまな草や樹木を、分け隔てすることなく、その背景となる土壌や空なども含めて写しとっている。光や影を含めて、植物を取り巻く「空気感」をどのように取り込んでいくのかに関心があるようだ。主に自宅の庭や近所の植物公園など、身近な場所で撮影することで、自らの視覚的経験を丁寧に跡づけていこうとしており、ボケの効果を活かした画面の構成力も高度かつ完成度が高い。地道に積み上げてきた作品世界が、ほぼ形を取りつつあるように見える。

ただ、ソフトフォーカスの植物というテーマは、アメリカのテリ・ワイフェンバックのような前例もあり、それだけにこだわる必要はないのではないかとも思う。もっと多様な被写体にカメラを向けていくことで、どちらかといえば小さくまとまりがちな彼女の視覚的世界を、大きく拡張・更新していくことができるはずだ。植物のようなどちらかといえばコントロールしやすいものだけでなく、新たな何かが次々に湧き出てくるような被写体にも向き合ってほしい。可能性を感じさせる作家なので、次の展開に期待したい。


公式サイト:http://www.poetic-scape.com/#exhibition

2023/06/09(金)(飯沢耕太郎)

横木安良夫「追い越すことのできない時間 Catch it if you can」

会期:2023/05/30~2023/06/11

Jam Photo Gallery[東京都]

横木安良夫は1949年、千葉県生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、篠山紀信のアシスタントを務め、1975年からフリーの写真家として活動し始めた。以後、ファッション・広告写真からドキュメンタリーまで幅広いジャンルで活動してきた。近年は文筆活動も精力的に展開している。

今回のJam Photo Galleryでの展示は、その彼がこれまで撮影してきた膨大な量の写真群のなかから、さまざまな「時間」のあり方を感じさせる写真をピックアップしたものである。被写体の幅はかなり大きく、撮影期間も1972年から2015年ごろまでに及ぶ。いわば、一人の写真家の眼差しの年代記とでもいうべき構成だが、あえてアトランダムに、キャプションも一切入れずに大小の写真を壁に配置した展示がとてもうまくいっていた。一点一点の写真が、自分自身でそれぞれの物語を語りかけてくるようで、楽しく、充実した時間を過ごすことができた。

なかに1点だけ、ジョギング中の少女を車で追い越しながらシャッターを切った3枚の写真を、あとでつなぎ合わせた合成写真があった。ストレートな写真が並ぶなかでは、かなり異質に見えるのだが、逆にこのような遊び心の発揮の仕方に、横木の写真家としての可能性が現われているようにも感じる。彼の写真の世界には、まだ奥行きがありそうだ。切り口を少しずつ変えながら、あるいはテーマをもっと絞り込んで、連続展を開催することも考えていいのではないだろうか。


公式サイト:https://www.jamphotogallery.com/exhibitions#comp-lh18gi8a

2023/06/09(金)(飯沢耕太郎)

第25回亀倉雄策賞受賞記念 岡崎智弘 個展「STUDY」

会期:2023/06/06~2023/06/28

クリエイションギャラリーG8[東京都]

NHK Eテレの子ども向け教育番組「デザインあneo」で、岡崎智弘が制作したコンテンツ映像「あのテーマ」が第25回亀倉雄策賞に選ばれた(三澤遥と同時受賞)。白い紙の上に載った「あ」の文字が分解され、いろいろな動きを小気味よく見せる様子は、子どもに限らず大人も見ていて飽きない。岡崎はこの手のコマ撮りアニメーションを駆使した映像制作を得意とするデザイナーである。本展は同賞受賞記念の個展なのだが、展示作品は「あのテーマ」以外、すべて彼が「スタディ」と呼ぶ個人的な活動で生まれた映像作品ばかりだった。題材とするのは平仮名、漢字、アルファベット、数字、記号……。1映像につき1文字を順に取り上げ、それぞれの文字やそれらが書かれた白い紙に不思議な動きを与えている。まるでその動きを操るがごとく登場するのが、赤い頭のマッチ棒だ。マッチ棒を指で動かしたり押さえたりすると、そのはずみで動きが始まるという構成である。


展示風景 クリエイションギャラリーG8


岡崎はコロナ禍をきっかけに、毎日、この数秒間の映像をつくる実験を始めたのだという。それは無目的で、完成を目指さず、ただ純粋につくることだけに向き合った時間だ。なぜ、つくるのか。答えは楽しいからである。しかし無目的といいつつも、動きの滑らかさなどを確認したり、その動きを見たときに人間が感じる感覚を観察したりと、実は目的があるようで、なんとなく習作や自己研鑽に近いのではないかと私は捉えた。といっても、彼にとって「苦」ではなく「楽しい」という点で、それは従来の習作や自己研鑽とはやや異なる。


展示風景 クリエイションギャラリーG8


展示風景 クリエイションギャラリーG8


かつて私も岡崎と一緒に仕事をした経験があるが、彼自身、子どものようなキラキラとした目と好奇心を持った人物である。独特の世界観を内に秘め、そこからアイデアが次から次へとあふれ出てくるような印象だった。そういうデザイナーはつねに何かをつくり続けていないと居ても立っても居られないのだろう。岡崎はスタディと位置付ける内面的な映像作品でありながら、それは多くの人々の目を惹き付ける。例えば頭をぼうっとさせて文字を見続けていると、文字から意味が抜け出て、ただの面白い形に見えてくるという経験をしたことはないだろうか。彼の創作は、そうした視点から出発しているようにも思える。きっと誰もがもつ些細な経験や感覚をくすぐられるのと、ちょっとしたからくりを見るような気分となって目が離せないのだろう。


公式サイト:http://rcc.recruit.co.jp/g8/exhibition/2306/2306.html


関連レビュー

第25回亀倉雄策賞受賞記念 三澤遥 個展「Just by | だけ しか たった」|杉江あこ:artscapeレビュー(2023年07月15日号)
「イメージの観測所」岡崎智弘展|杉江あこ:artscapeレビュー(2018年09月01日号)

2023/06/14(水)(杉江あこ)

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吉江淳「出口の町」

会期:2023/06/06~2023/06/19

ニコンサロン[東京都]

吉江淳は、生まれ育った群馬県太田市を6×7判の中判カメラで撮影してきた。太田は関東平野のはずれで、利根川の流域であり、人工と自然、新しいものと古いものとが入り混じる「汽水域」のような街である。取り立てて特徴のある土地柄ではなく、むしろ散文的なたたずまいの風景が広がっている。だが、吉江はその「何もない景色」こそを、写真のテーマとして選びとった。写真展に寄せたテキストに、被写体となった太田の眺めについてこう書いている。

「私にとっては、明媚な風景よりも自然について、都市的な風景よりも生について強く響いてくる」。

会場には、まさにそのような思いを込めて撮影された風景が並んでいた。利根川の河川敷を撮影した大判サイズのプリント(6点)と、街の眺めにカメラを向けた大全紙プリント(18点)を並置しているのだが、後者の即物的だが緻密な観察力を感じさせる写真群に見所がある。寂寞とした、荒廃の気配を漂わせる地方都市の姿が淡々と、だが的確なポジションから描き出されていた。「Hotel ピュアー」というラブホテルの看板の脇に墓地がある風景を枯れ草越しに撮影した一枚など、まさに「生について」の感慨を呼び起こす写真といえるだろう。

ぜひこのまま撮り続けて、写真集にまとめてほしい。


公式サイト:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2023/20230606_ns.html

2023/06/16(金)(飯沢耕太郎)

2023年07月15日号の
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