artscapeレビュー
吉江淳「出口の町」
2023年07月15日号
会期:2023/06/06~2023/06/19
ニコンサロン[東京都]
吉江淳は、生まれ育った群馬県太田市を6×7判の中判カメラで撮影してきた。太田は関東平野のはずれで、利根川の流域であり、人工と自然、新しいものと古いものとが入り混じる「汽水域」のような街である。取り立てて特徴のある土地柄ではなく、むしろ散文的なたたずまいの風景が広がっている。だが、吉江はその「何もない景色」こそを、写真のテーマとして選びとった。写真展に寄せたテキストに、被写体となった太田の眺めについてこう書いている。
「私にとっては、明媚な風景よりも自然について、都市的な風景よりも生について強く響いてくる」。
会場には、まさにそのような思いを込めて撮影された風景が並んでいた。利根川の河川敷を撮影した大判サイズのプリント(6点)と、街の眺めにカメラを向けた大全紙プリント(18点)を並置しているのだが、後者の即物的だが緻密な観察力を感じさせる写真群に見所がある。寂寞とした、荒廃の気配を漂わせる地方都市の姿が淡々と、だが的確なポジションから描き出されていた。「Hotel ピュアー」というラブホテルの看板の脇に墓地がある風景を枯れ草越しに撮影した一枚など、まさに「生について」の感慨を呼び起こす写真といえるだろう。
ぜひこのまま撮り続けて、写真集にまとめてほしい。
公式サイト:https://www.nikon-image.com/activity/exhibition/thegallery/events/2023/20230606_ns.html
2023/06/16(金)(飯沢耕太郎)