artscapeレビュー

オサム・ジェームス・中川「Witness Trees」

2023年07月15日号

会期:2023/05/17~2023/07/01

PGI[東京都]

日本とアメリカの両方に出自を持ち、滞米45年になるというオサム・ジェームス・中川は、つねに自らのアイデンティティを問い直す作品を発表し続けてきた。2014年にPGIで展示され、同名の写真集も刊行された「GAMA CAVES」は、彼の妻にとって故郷でもある沖縄の、太平洋戦争末期に住人たちが避難し、多くの死者を出した洞窟にカメラを向けた写真群だった。今回の「Witness Trees」は、第二次世界大戦中に日系人が強制収容されていたキャンプの跡地、19ヶ所を訪れて撮影した写真を集成したシリーズである。

中川が目を留めたのは、マンザナー、アマチ、ハート・マウンテンなどの収容所跡地に生えている樹木である。それらはまさに、70年前に日系人にふりかかった出来事の目撃者(Witness)といえるだろう。樹を中心に、周囲の状況を丁寧に取り込んだ画面構成が、すべての写真に貫かれている。中川はさらに、写真のプリントにも徹底してこだわった。画像を複写し、それをさらにデジタル・データ化するというプロセスを踏んだだけでなく、ネガ画像とポジ画像を重ね合わせてソラリゼーション(画像反転)のような効果を生み出している。そうやって形成されたプリントは「過去と現在、ポジとネガ、アナログとデジタル」とが結びついた、「記憶の重み」を備えているように見えてくる。本作は、中川がこれまで写真家として積み上げてきた作品世界の到達点といえそうな、静謐だがパワフルな写真シリーズとして成立していた。


公式サイト:https://www.pgi.ac/exhibitions/8670

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