artscapeレビュー
吉永陽一「地上絵」
2023年07月15日号
会期:2023/06/15~2023/07/02
コミュニケーションギャラリーふげん社[東京都]
吉永陽一は2008年頃より、本格的に空から地上を撮影する空撮作品を制作し始めた。それらをメインテーマとして取り組んできた鉄道写真と結びつけることで、自ら「空鉄(そらてつ)」と呼ぶ新たなジャンルが形をとることになった。今回のコミュニケーションギャラリーふげん社での個展には、その「空鉄」の写真群を中心として、2008〜2023年に国内外で撮影した空撮作品、42点が展示されていた。
吉永は小型のセスナ機に搭乗し、地上300〜1000メートルほどの高度からシャッターを切る。その高さから見る眺めは、「鉄道が、街が、建物が、大地が交差し、寄り添って絡み合い、偶然の形をつくりだしている」。それらは確かに、地上にいては見ることができず、高い場所から見下ろすことで思いがけないフォルムが姿を現わすという意味で、「ナスカの地上絵」のようにも見える。本シリーズの最大の魅力は、何よりも、そんな「偶然の形」を見出したときの吉永の驚きと歓びと感動とが、いきいきと伝わってくるところにある。
「空鉄」の代表作と言ってよい、伊丹空港に着陸しようとする旅客機と、新大阪に到着する直前の新幹線車両とを同一画面に写し込んだ作品(「新大阪 2016年4月30日」)などを見ると、「地上絵」の多様さと、予想をはるかに超えた面白さに目を見張る思いを味わう。鉄道写真がベースとなっているシリーズではあるが、街や人の営みを中心に撮影する方向にシフトしていくことにも、大きな可能性を感じる。そのことで、さらに広がりのある作品になっていくのではないだろうか。
公式サイト:https://fugensha.jp/events/230615yoshinaga/
2023/06/23(金)(飯沢耕太郎)