2023年12月15日号
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artscapeレビュー

蓮井元彦「そこにいる」

2023年10月15日号

会期:2023/09/12~2023/10/15

半山ギャラリー[東京都]

東京・代田橋の半山ギャラリーの会場には、14点の写真が並んでいた。道路脇の植物を撮影した2点以外は、すべてポートレートだ。スタジオなどで、ポーズライティングをあらかじめ定め、構えて撮影したものではない。「はじめて会った人、近所の人、ひさしぶりに会った人」などに、素直にカメラを向けている。正面から向き合って撮影した、腰から上くらいの写真が多く、いわば、ポートレート撮影の原点を確認するような仕事といえるだろう。

蓮井の写真を見ていると、ポートレートとはコミュニケーションの積み重ねのなかで成立してくるものであることがよくわかる。写真家と被写体とのあいだのコミュニケーション、そして出来上がった写真を前にした観客と写真家、あるいは写真に写っている人とのあいだのコミュニケーション──それらが重なり合い、干渉し合うところに、“声”のようなものが聞こえてくる。だが、その“声”をクリアに聞きとるためには、写真そのものはあまり押し付けがましくないほうがいい。その人が「そこにいる」ということだけが端的に伝われば、あとは波紋が広がるようにさまざまな思いや感情が膨らんでいく。蓮井は「もともとクラスメートや身の回りの人々の写真を撮ることから始めた自分をもう一度見つめ直そう」という動機で、このシリーズを撮り始めたのだという。それは彼にとっての原点回帰であるとともに、われわれ一人ひとりへの、ポートレートとは何なのか、どのように撮るべき(見るべき)なのかという問いかけにもなっていた。


蓮井元彦「そこにいる」:https://pineapple-sawfish-6yml.squarespace.com/exhibition/jc63f2w9e53thm5n3aspr3lt762s97

2023/09/13(水)(飯沢耕太郎)

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