artscapeレビュー

川崎祐「未成の周辺」

2023年10月15日号

会期:2023/09/01~2023/09/24

Kanzan Gallery[東京都]

川崎祐は前作『光景』(赤々舎、2019)で、故郷の滋賀県長浜市の風景とそこに住む家族の姿を捉えたシリーズを発表した。その、否応なしに絡みついてくるような、かかわりの深さを感じてしまう写真群と比較すると、今回、Kanzan Galleryの個展に出品された新作「未成の周辺」からは、どこか淡く希薄な印象を受ける。被写体となった和歌山県新宮市の周辺は、川崎が学生時代からずっと関心を保ち続けてきた中上健次の小説の舞台になった場所である。だが前作と比較すると、そのような理由づけだけでは、どうしても必然性を欠いたものに見えてきてしまうのだ。

川崎はむしろ、「他者の風景」を撮ってみたかったのではないだろうか。『光景』に写し込まれた琵琶湖北岸の土地の呪縛から離れて、もっと自由に、のびやかに見渡すことのできる眺めを求めたともいえそうだ。その狙いはとてもうまくいっていて、意味づけの重力から逃れた「未成の」風景が、次々に目の前に生起してきた。だが展覧会に寄せたコメントには、「海にしろ山にしろ森にしろ、みあきることのない景色がいたるところにひろがる新宮とその周辺」にカメラを向けながら、結果的には「迂回に迂回を重ねたような道をぐるぐる歩きながら荒地や空き地や住宅が気になった」と書いている。その「荒地や空き地や住宅」は、『光景』にも頻繁に登場してくる。とすると、川崎が次にめざすべきなのは、「他者の風景」と「自分の風景」とが重なり合うところに出現してくる眺めなのかもしれない。その萌芽は、今回のシリーズにもすでにあらわれてきているように見える。

なお、展覧会にあわせて喫水線から同名の写真集が刊行されている。


川崎祐「未成の周辺」:http://www.kanzan-g.jp/yu_kawasaki.html

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