artscapeレビュー

石巻の震災遺構

2023年11月01日号

[宮城県]

1年半ぶりに石巻を回り、昨年オープンした《石巻市震災遺構》門脇小学校を訪れた。背後が崖になっており、手前の校庭はおそらくその領域と広さがわかりにくくなったため、道路側に門柱を復元している。門脇小学校は津波に襲われただけでなく、火災も発生し、焼けただれた跡が痛々しい建築だった。それゆえ、一時は解体の声が上がっていたが、震災遺構として保存することになり、維持管理のコストを抑えるために、両ウィングの部分をカットし、全体のボリュームを減らしている。プロポーションはおかしくなるが、こうした手法は近代建築の保存でもたまに行なわれており、前例がないわけではない。


学校、チューブ、屋内運動場(門脇小学校)


さて、ここでは被災した建築を部屋の外から覗く観察棟をつくる一方、被害が少なかった特別教室棟と屋内運動場は展示空間として再生されている。また校舎の右脇に海とかつての住宅地(現在は津波復興祈念公園)を望む、チューブ状の空間が張り出す。1階は津波被害によりモノが散乱し、天井が壊れているが、2階と3階はむしろ火で焼かれた現場のために、黒焦げになった机や椅子の位置はそのままだった。改めて考えると、火災が起きた建築をそのまま保存する事例は珍しい(なお、在校していた児童に死者はいなかった)。また屋内運動場に仮設住宅の実物を設置しているが、意外にこうした展示はこれまでの伝承館になかった。特別教室棟の展示も、ポエム的なパートを除くと、とても充実した内容である。


津波が直撃した1階(門脇小学校)


焼けた3階(門脇小学校)


仮設住宅の展示(門脇小学校)


みやぎ東日本大震災津波伝承館がある石巻南浜津波復興祈念公園は、一部、破壊された建築の基礎を残したり、住宅街のときの道路割を踏まえたランドスケープを展開している。ただ、座るベンチはわずかで、子供が遊ぶ雰囲気もあまりない。メモリアルの場所とはいえ、せっかくの広大な空間がもったいないように思われた。「がんばろう石巻」の看板を置く市民活動のエリアのみ、異空間として飲食などの居場所が存在する。

今回は、被災状況の展示があるかを確認すべく、再開した《石ノ森萬画館》にも立ち寄った。展示エリアにはまったくないため、もうないのかと思ったら、最上階のカフェの横にわずかながら当時の状況を説明する写真が貼られていた。津波到達点を示すマークを見ると、1階の物販エリアの柱の上の方まで届いている。ゆえに、上階の展示や貴重な資料は被害を受けなかったが、機器が損傷し、しばらく空調管理ができなかったため、資料はすべて石森プロダクションに返却したという。


当時の被災状況の説明写真(石ノ森萬画館)


1階ショップのガラスに津波遡上高が示されている(石ノ森萬画館)


また隣にある《旧石巻ハリストス正教会教会堂》を再訪した。これも311で被災した明治時代の木造の教会だが、流されず、修復を終えている。そもそも別の場所に建っていた教会だが、1978年の宮城県沖地震で被災し、現在の場所に移築・復元されたものだった。すなわち、震災と津波によって、2回も被害を受けた建築である。


説明パネル(旧石巻ハリストス正教会教会堂)



石巻市震災遺構:https://www.ishinomakiikou.net/
石巻南浜津波復興祈念公園:https://ishinomakiminamihama-park.jp/about/
石ノ森萬画館:https://www.mangattan.jp/manga/
旧石巻ハリストス正教会教会堂:https://www.city.ishinomaki.lg.jp/cont/20102500/1482/1482.html

2023/09/29(金)(五十嵐太郎)

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