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シドニー・オペラハウス50周年

2023年11月01日号

[オーストラリア、シドニー]

《シドニー・オペラハウス》(1973)を見学するために、海を囲むサーキュラー・キーを再訪する。海側から振り返ると、街並みの輪郭が凸凹し、巨大な土木構築物が貫入するほか、近代以前の建築は古典主義が崩れており、欧米よりはアジアに近い雰囲気に対し、親近感を覚える印象は前と変わらない。またハーバー・ブリッジの向こうには、水辺でルナ・パークと集合住宅群が近接し、住戸バルコニーの目の前で絶叫ライドが動くという凄まじい状況である。


海から見る《シドニー・オペラハウス》(1973)


サーキュラー・キー


対岸のルナ・パーク


しかし、ここが観光客にとって必須の場所となったのは、いまやシドニーだけでなく、オーストラリアという国を代表するランドマークであり、人工的な建造物としてはもっとも若い世界遺産、すなわちヨーン・ウツソンが設計した《シドニー・オペラハウス》が建つからだ。今回は1時間のガイド・ツアーに参加し、内部のクラシックのコンサートホールと劇場を見学したが、ホワイエから眺める海の風景はやはり素晴らしい。5000円近い参加費でも、世界中の観光客が集まり、毎日いくつもツアーができる現代建築はあまりないだろう(オペラやミュージカルを鑑賞するよりは安く、しかも複数のホールが見学できる)。


《シドニー・オペラハウス》ホワイエからハーバー・ブリッジを見る


《シドニー・オペラハウス》コンサートホール


20世紀半ばの鉄筋コンクリートの技術が可能にした新しい造形は、完成までに十数年かかり、コストが膨れすぎたために、政治的に攻撃され、途中で建築家が辞めざるを得なかったが(後に名誉回復)、やはり彼がコンペに提出した最初のスケッチに描かれた曲線的なデザインが、普遍的な価値を獲得したのだろう。近くのシドニー博物館では、2023年10月にオープン50周年を記念するオペラハウスの企画展を開催していた。大変だった設計や建設の経緯はもちろん(インテリアはオーストラリアの建築家に引き継がれ、当初案と違うものとなった)、オープン時の式典や公演の記録、これまでのポスターなどを通じた活動の紹介、上演に使われた衣装、舞台美術のほか、グッズ、ニュースの映像におけるオペラハウス、アート作品化された造形などによって、半世紀の歴史を紹介している。


オープン時の式典の際の資料や航空会社の制服、舞台衣装など(シドニー博物館)


オペラハウス関連のグッズの部屋(シドニー博物館)


資金難を解消するために宝くじが行なわれたり、現地の家庭にも何気なく置かれているであろう膨大な種類のグッズを見ると、パフォーミングアーツの鑑賞に出かけなくても、国民に浸透した建築であることが伺えるだろう。またさまざまな視点からのドキュメント映像も興味深い内容であり、1時間半ほどかけて4作品ほど鑑賞した。後に和解はしたが、ウツソン自身は完成したオペラハウスを見ていないという(亡くなったのは2008年)。改修などの監修は、建築家になった彼の息子が引き継いでいる。


レゴによるオペラハウスの模型(シドニー博物館)



シドニー・オペラハウス:https://opera.org.au/welcome/ja/
「The People’s House: Sydney Opera House at 50」展(シドニー博物館):https://mhnsw.au/whats-on/exhibitions/the-peoples-house-sydney-opera-house-at-50/

2023/10/05(木)(五十嵐太郎)

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