artscapeレビュー
第785回デザインギャラリー1953企画展「倉本仁 素材と心中」
2023年11月01日号
会期:2023/09/13~2023/11/06
松屋銀座7階・デザインギャラリー1953[東京都]
「素材と心中」とは、なかなか骨太なタイトルだ。素材と一心同体であるということを意図しているという。まさにプロダクトデザイナー、倉本仁の真髄を表わしているように感じた。
プロダクトデザインとは素材と技術の生かし方を考えることではないかと思う。したがってデザイナーやつくり手は素材との対話が欠かせないのではないかと推測する。対話というと、物に話しかける姿がイメージされ、まるで“不思議ちゃん”のように感じるかもしれないが、そうではない。対象となる素材をよく観察し、その特性を見極め、長所も短所も含めて個性と捉え、どのように扱えばその個性をより引き出し、魅力や価値へと変えられるのかを考えることではないか。
本展で展示されていた約25点の作品は、倉本がさまざまな素材と格闘した末に生み出されたものばかりだという。例えば屋根や壁面に使われる波型スレートという建築資材をそのまま切り出しただけのような傘立て《SLATE》は、素材そのものがすでに完成されていたことから、デザインの手をあまり加えなかったと解説している。彼が素材と対話し、素材に惚れ込んだ様子が思い浮かぶ。また3本の金属パイプをねじり絡めて留めた《KNIT》は、まるでロープを手で組み上げたかのようなデザインである。金属パイプとロープという異なる素材ながら、共通の形を見出した点が面白い。ほかに製造過程で大量に生じてしまう木材や皮革、人工大理石などの端材に着目したプロダクトがいくつかあり、いまの時代、廃棄を減らすための試みもデザイナーに突き付けられていることを物語っていた。これらの試みは環境保護の観点から出発しているに違いないが、倉本にしてみれば端材すら心惹かれる素材に違いない。端材ゆえに表われる素材の意外な表情を生かしながら、さまざまな日用品やオブジェへと生まれ変わらせてしまう力はさすがである。「心中」ゆえに、彼の素材への並ならぬ愛がヒシと伝わる展覧会だった。
第785回デザインギャラリー1953企画展「倉本仁 素材と心中」:https://designcommittee.jp/gallery/2023/09/dg785.html
2023/10/10(火)(杉江あこ)