2024年02月15日号
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artscapeレビュー

ゲティ・センター、ゲティ・ヴィラ

2024年02月01日号

[アメリカ合衆国、ロサンゼルス]

32年前はまだゲティ・センターはなく、ヴィラを訪れた記憶はあるが、ヴィラのほうもその後リニューアルされたという。まずはホテルからバスを乗り継いでゲティ・センターへ。バスを降りるとそこから丘の上までトラムに乗る。これは快適。しかもトラムもセンターの入場料もタダというから太っ腹だ。創設者のジャン・ポール・ゲティ(1892-1976)は石油王として世界一の大富豪になったこともある実業家。金持ちといっても日本とはスケールが違う。丘の上に建つセンターはリチャード・マイヤーの設計で1997年に開館、そのうち美術館は5棟の白いモダンな建物からなる。美術館のテラスに出ると眼下にLAの街から太平洋までが広がり、絶景というほかない。



ゲティ・センター [筆者撮影]



ゲティ・センター庭園 [筆者撮影]


ここでは中世から近代までの絵画を中心に展示している。あるわあるわ、マサッチョからルーベンス、ターナー、モネ、ファン・ゴッホまで教科書どおりにひととおりそろえている。この大富豪は美術が好きというより、みずからのルーツであるヨーロッパに憧れ、ヨーロッパの歴史・文化を可視化した絵画を買い集めることで(西洋)美術史そのものを手に入れたかったに違いない。そのせいか、一流品はあっても超一流品はない。そもそも集めたのが20世紀なので、超一流品はすでにヨーロッパの老舗ミュージアムに収まっていたのだ。

と思って見ていたら、ティツィアーノの《ヴィーナスとアドニス》があるではないか。古典絵画のなかでもこれがもっとも価値が高そうだが、しかしこの作品は何点ものヴァージョンがあって、ここのは工房作とする専門家もいる。ファン・ゴッホの《アイリス》もある。バブルの時期に約73億円で落札されて有名になった作品だが、購入者が手放したのを入手したのだろう。あれこれ手を使って買い集め、美術史の教科書をつくろうとしたことがわかる。規模の大きさ、建築および環境のすばらしさに比べて、中身はやはりアメリカン(少し薄い)というのが正直な感想だ。

Uberでゲティ・ヴィラに移動。ヴィラはポンペイの近くに埋もれていた邸宅を模した美術館で、古代ギリシャ・ローマの美術を中心に展示している。ここに来ると、ゲティがヨーロッパに恋焦がれてコレクションと美術館建設に走ったことが、推測ではなく確信に変わる。LACMAにしろザ・ブロードにしろMOCAにしろ、いずれも世界の現代美術が中心なのに、ヴィラとセンターだけが古代から近代までの西洋美術に限定しているからだ。これはジャン・ポール・ゲティの個人的な好みもあるだろうが、むしろ自分のルーツを西洋に求めたがる保守的なアメリカ人の嗜好を反映したものと捉えるべきかもしれない。それにしても、繰り返すようだが中身はともかく、土地と建物にどれだけ大金を注ぎ込んだことか。しかも驚くべきことに入館無料なのだ。ちなみに、ゲティも含めてこの3日間で訪れた美術館5館の入場料はすべて無料だった。道理でどこも混んでるはずだ。




ゲティ・ヴィラ [筆者撮影]


The Getty:https://www.getty.edu/

2024/01/04(木)(村田真)

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