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『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』4Kリマスター版

2024年02月01日号

映画『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』4Kリマスター版を鑑賞した。その前作の終盤において「何もかも、みな懐かしい」という有名なセリフがあるが、ティーンエイジャーのときに熱中した時代を思い出す。もっとも、1978年の公開時は小学生だったため、カセットテープ版のサントラを何度も聴いた後、確かようやくレンタルビデオで見たので、実はスクリーンで観るのは初だった。そうした経緯もあって、個人的には宮川泰が作曲した音楽や劇伴、名セリフの数々の方が強く印象に刻まれた作品なのだが、大きな映像で鑑賞しても、やはり各場面において、それらの存在感は圧倒的である。もちろん、冒頭のシーンで豆粒のように小さい状態から白色彗星を確認できるのは、映画館ならではの体験だった。公開当時に忠実な4Kリマスター版ということで、最後にこれでヤマトはもうみなさんの前に姿を現わすことはないでしょうというメッセージまで含まれていたが、その後現在までえんえんとシリーズが続いている歴史を知ると、複雑な気分になる。特攻の美化を良しとしない松本零士の意向や、続編でさらに儲けようという商業的な理由が絡みあい、今日までヤマトは生きながらえた。

満身創痍の戦闘の果てに超巨大戦艦が出現したときの絶望感、そして主人公を含む、ほとんどの乗組員が死んでしまう展開は、リアルタイムで劇場鑑賞したファンにとっては衝撃作だっただろう。これは敗戦を体験した世代が制作したSFロマンの極として興味深い。考えてみると、太平洋戦争で戦艦大和は沈没し、日本は負けたが、未来の危機において、今度は宇宙戦艦として蘇り、日本人が地球を救うという凄まじい物語である(名前を見るかぎり、乗組員はすべて日本人だと思われる)。ある意味でナショナリズムをくすぐる偽史めいたフィクションだろう。ちなみに、いまとなってはエピソード4と呼ばれる第1作の『スター・ウォーズ』(1977)の影響も強い。例えば、アナライザーはR2-D2の翻案だし、都市帝国への潜入もデス・スターの攻略と重なる。当時、『スター・ウォーズ』の方は、父に連れられて映画館で鑑賞したが、特撮の技術は小学生の筆者に強烈なインパクトを残した。その後、劇場公開されたシリーズはすべて映画館に足を運んでいるが、SFXは飛躍的に進化しても、最初の衝撃を超えることはない。

ともあれ、死ななかったテレビアニメ『宇宙戦艦ヤマト2』(1978-79)のパラレルワールドをつくり、続編を制作したヤマトに対し、庵野秀明は自分はやらないと語った。なるほど、エヴァンゲリオンの新劇場版は続編ではない。監督自らが語りなおし、抽象的なエンディグの解像度を上げるための作業だった。


『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』4Kリマスター版:https://starblazers-yamato.net/4kremaster/index.html

2024/01/07(日)(五十嵐太郎)

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