artscapeレビュー
演出 蜷川幸雄、作 清水邦夫:さいたまゴールドシアター「95kgと97kgのあいだ」
2009年04月01日号
会期:2009/03/18~2009/03/29
にしすがも創造舎[東京都]
60人は優に超える役者たち全員が砂袋を担いで賑々しく行進する。タイトルの意味は、その砂袋の重さである。行進は「奴隷労働の演技」などではない。舞台は稽古場、したがって役者の演じるのは「役者」であって、彼らは「重いものを担ぐという演技」を演技する。ほぼ全編がこの劇中劇というか劇中稽古に費やされる本作は、演じさせる支配者と演じる被支配者の関係の物語である。冒頭の場面で寡黙に行列する若者たちをちゃかし続けた不良男は、スモークにせかされ老人たちが登場すると、鬼演出家へ変貌する。さいたまゴールドシアターの老役者たちは、ほぼ同数のNINAGAWA STUDIOの若い役者たちとシンプルな対比を見せる。老体をさらし、若者たちはそれをひやかす。鬼演出家の厳しい指令に応え担ぐ砂袋は、次第に重くなる。100kgは担げなくとも95kgはぎりぎり可能。ならば、そこにさらに2kg足してみよ。「重さ」をイメージし、体で感じてみよ。なぜできない? そんなこともできないでそれでも経験を積み重ねた老人か! 演技は想像力を刺激し、「重さ」=「苦しさ」のメタファーはさまざまな個人的・歴史的出来事を想起させる。だとしても、あまりに類型的なキャラとその演技、あまりに一様な身体性を現実の演出家・蜷川が現実の役者に課している以上、すべては蜷川と役者たちのリアルな物語にしか見えない。「世界の巨匠」に本公演という砂袋を担がされた苦しみと喜び。照明や音響はそれらをスペクタクル化する。役者たちのカタルシスのために舞台があったのなら、これは劇中稽古ではなく稽古中劇だったのかもしれない。
2009/03/18(水)(木村覚)