artscapeレビュー
Chim↑Pom「広島!」
2009年04月01日号
会期:2009/03/20~2009/03/22
Vacant[東京都]
本展覧会の核となる、というかあの騒動の原因を招いた《広島の空をピカッとさせる》は、動画作品だった。騒動の際に流通した写真は「ピカッ」の文字だけが切り取られた状態であったけれども、この作品にとって重要なのは、この文字の下に原爆ドームが配置されていることで、もっと重要なのは、原爆ドームの下、のどかな調子で歩く修学旅行生や市民の姿をカメラがフレームインさせていることだった。原爆ドームが示唆する〈過去の現実〉とその足元の呑気で鈍感な〈今日の現実〉。上空の「ピカッ」は、2つの現実を重ねるとともに、両者のギャップを痛烈に意識させる装置だったのだ。本作に一層の凄味を与えているのは、「ピカッ」が飛行機雲で出来ていることだった。つまり、かつてリトルボーイを搭載し飛行した武器が、脳天気な表情のカタカナを描く絵筆へと誤用されているわけだ。リトルボーイの放った光がゆっくりゆっくりと描かれてゆくこの文字だったらよかったのに、と思う。けれどもそんな無邪気な夢(ギャグ)は、原爆ドームの現実にかき消されてしまう。しかもそのドームの現実はさらに、穏やかな今日の現実にスルーされている。ドームにはカラスがちょこんと座っていて、Chim↑Pomのカメラは、その光景全体をじっと見つめている。彼らの制作過程に勇み足の面があったとしても、またそれによって悲しみや怒りを引き起こしたことが事実であるとしても、この作品が映し出した現実は間違いなくひとつの現実であり、現実を映す鏡の機能を強烈な仕方で発揮している本作が、彼らの代表作、のみならずこの時代の代表作となるのは間違いない。これは彼らの作品ではなくぼくたちの作品である。
2009/03/20(金・祝)(木村覚)