artscapeレビュー
横浜市民ギャラリーをかけぬけたアヴァンギャルドたち
2010年04月01日号
会期:2010/03/02~2010/03/23
横浜市民ギャラリー[神奈川県]
「全日本アンデパンダン」や「今日の作家展」など、1964年以来さまざまな前衛美術に発表の場を提供してきた横浜市民ギャラリーのコレクション展。池田龍雄、岡本太郎、草間彌生、斎藤義重、菅木志雄など、戦後の日本美術を代表する美術家たちによる作品、およそ40点が展示された。なかでもとりわけ鮮やかな魅力を放っていたのが、吉仲太造の《碑》(1964)。新聞の株式欄や不動産欄を切り貼りした大きなコラージュ作品で、眼を凝らして見ると、現在とは比べものにならないほどの低廉な価格に驚かされる。一見すると乱雑に貼り重ねられているようだが、全体を見通してみれば、新聞紙の断片が規則的に並んでおり、美しい模様を描いていることに気づかされる。株式と不動産という記号から、この作品は「資本主義経済そのもののデスマスク」(大岡信)とか「戦後日本の鎮魂のモニュメント」(光田由里)などといかにも大袈裟に評価されているが、それほど話を高尚なレベルに飛躍させなくても、これは誰がどう見ても、明らかに地図である。それは、貼りつけられた新聞紙が江戸切絵図のように上下左右バラバラな方向に向けられているからであり、なおかつ全体的には吉仲が生まれ育った京都の街並みを彷彿させるからだ。規則正しい模様は、御所を中心に碁盤目状に路地が行き交う京都の都市構造と明らかに対応している。数字と記号が充溢したこの街の中で、おまえはいったいどこに立っているのか? 吉仲の作品は静かにそう問い掛けているのだ。
2010/03/02(火)(福住廉)