artscapeレビュー

壺中天公演:奥山ばらば『さぐらんぼうい』

2010年04月01日号

会期:2010/03/16~2010/03/22

壺中天[東京都]

壺中天メンバーの奥山ばらばが演出・振付(振鋳)などを初めて行なった。90分弱。奥山の故郷・山形をイメージの源泉にし(タイトルには山形名産の「さくらんぼ」と「Boy」が掛け合わされている)、土着的で清澄な世界が展開された。ラスト、寝そべった奥山へ向け両側から転がってきた赤いビー玉は、「大量」というほどではなかったぶん迫力には欠けたけれど、いつもの壺中天の(とくに男性メンバーが演出・振付する際の)躍動的でワイルドな作品とは異質な、透明感をうまく示していた。「異質」といっても壺中天らしさから逸脱してはいない。場面設定やキャラクターや人物の関係性など壺中天に典型的な諸要素──「テンプレート」と呼ぶとドライすぎるけれどそんなふうに表現したくなるようなもの──が彼らの内で充分スタイル化されていて、憶測するに奥山は、それらを自分流にアレンジすることによって作品を練り上げていったようだ。いわば壺中天という工場のベルトコンベアに素材が乗れば、さまざまな作家によって一貫したスタイルをもった、しかし多様な作品を生み出すことができるわけだ。そうした面をもって彼らを批判することも可能だろうけれど、ぼくは肯定的だ。よき個人以上によき工場(作品制作のみならず振付家やダンサーの養成の場という点も含む)こそ、現在求められているものであろうし、彼らの作品に宿る闇(異常、不良、悪、ほうけetc.)の姿は、今日の社会が無視し、無視することでその潜在力が奪われてしまっている何かであるように思えてしようがないからだ。

2010/03/22(月)(木村覚)

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