artscapeレビュー

矢内原美邦『あーなったら、こうならない。』

2010年04月01日号

会期:2010/03/05~2010/03/07

横浜赤レンガ倉庫1号館3Fホール[東京都]

二部構成。前半は明るい舞台。若いダンサーたちの素早く強い動き、不意にあらわれるユニゾン。痙攣的な仕草が散りばめられたダンスは、〈矢内原スタイル〉とでも称したくなる固有のテイストを感じさせる。ついたりふんだり、ダンサー同士の関係を見ていると、その協調しない/できない状態が私たちの人生の常態であると象徴的に語られているように思われる。床に置かれた複数のテレビに映るのは、落下する人間のアニメーション。不調和の雰囲気は、次第に取り返しのつかないなにかと繋がっているような予感を帯びてくる。後半の起点は、白い床の上に黒い巨大な布が被さり、そこから黒い衣装の矢内原が出てきた場面。戦争や災害のニュース音声が響く。艶のあるハイヒールに茶髪姿の矢内原はソロで激しいダンスをみせる。空気が送られると膨らんだり萎んだりする黒い布はアネット・メサジェの作品を想起させられた。収拾のつかないまま放り出されたような暗くて激しい情動が「黒」という色彩の内に吸い込まれてゆく。恐ろしくときに美しい暴走は、独特の高揚感を湛えながら突き進んだ。内向する傾向がダンスの作家にはある(媒体がしばしば自己の身体であることにその理由があるのだろうか)。ある昇華を経るとその傾向はこう結晶するというひとつのサンプルを見た気がした。

2010/03/06(土)(木村覚)

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