artscapeレビュー
VOCA展 2010
2010年04月01日号
会期:2010/03/14~2010/03/30
上野の森美術館[東京都]
毎春好例のVOCA展。ここ数年来の大きな特徴だった、痛々しい内面を少女マンガ的なモチーフによって具象的に描き出す傾向がある程度落ち着き、新たな方向性を求めて試行錯誤するかのように、じつにさまざまな絵画表現が発表されていて、おもしろい。選考委員のひとりである高階秀爾は、毎年図録で発表される選考所感のなかで、出品作品の多様性を褒め称える言葉をほぼ毎年必ず述べているが、批評に課せられている役割はそうした多様性を無邪気に礼賛することではなく、もう一歩踏み込んで、多様性のなかに隠されている優劣を炙り出していくことにあることはいうまでもない。たとえば、近年の活躍が目覚しい風間サチコは謎の巨人と対峙する女子防空隊の戦いぶりを描いた版画作品《大日本防空戦士・2670》を発表したが、かつての旧陸軍第三歩兵連隊兵舎と現在の国立新美術館を融合させて描くなど細部の工夫がおもしろいものの、全体としてのスケール感に乏しく、もう少し大きな画面で迫力と凄味を効かせることができたらと悔やまれてならない。さらに同じく注目を集めている斎藤芽生も、湿気を帯びた言葉を絵に添えるという手法が従来の近代絵画から大きく逸脱しているからこそおもしろかったにもかかわらず、今回展示された作品にはそうした言葉がほとんど見受けられず、いわば「椎名林檎的な世界観」が影をひそめてしまっていたのが残念である。そうしたなか、得体の知れない怪しい魅力を放っていたのが、伊藤彩。作品名に見られる言葉のセンスが光っているうえ、その絵もまるで見たことのない、不可解な世界がなんの迷いもなく描き出されているように見える。絵の展示の仕方もすばらしく、今後の動向がもっとも気になるアーティストである。
2010/03/18(木)(福住廉)