artscapeレビュー
川口隆夫『動くポリへドロン──私の目に映るもの』
2010年04月01日号
会期:2010/02/20~2010/02/28
セッションハウス[東京都]
1時間ほどのパフォーマンスは、1月から2月にかけて実施されたワークショップの成果披露をかねていた。「パフォーマンス」と言っても、ワークショップの課題を繋いだもので、上演後の観客とのトークで聞いたところだと、川口以外の5人ほどの参加者/パフォーマーはそれぞれ、上演中に新たな発見があったという。テーマは空間への意識を更新すること。最初の課題/演目で川口は、観客を含めた全員に目をつむらせ、目の前にはどんなものがあったか、背中の空間には何があったかをイメージさせた。その後、目を開けさせると、イメージと現実がどう違っていたかについて観客と簡単なディスカッションをした。次に、パフォーマーたちを向き合わせ、互いに車やアパートの部屋など各自が所有する空間について質問させた。さらに、黄色いテニスボールが10個ほど出てくると、パフォーマーはそれを空間のさまざまな場所に配置していった。こうして点(ボール)からはじまった空間を意識するレッスンは、さらにボールを投げ誰かがキャッチした点を三次元(縦軸/横軸/奥行き軸が目盛の付いた紐によって固定された)で次々に定めそのなかの2つの点を結ぶことで空間に線を描く課題へと移行した。6人で3本の線が空間に配置された。川口はこれを90度回転させようと言い出した。するとある点(線の端)は低位から高位に、別の点は高位から低位にずらされ、なかには床を突き破らないと置けない点も出てきた。ジェットコースターが急降下する前後のような空間の変化をパフォーマーは体感しているのだろう。その感触が観客にも伝わってくる。最後に、6人が長い紐を等間隔でつまみ(この川口のアイディアを支えたのは紐というアイテムだった)、6角形をつくると、1人がその形の内側へと入り込んだ。「紐を貼った状態で各自が移動する」といったルールが設定されていると思われるこの演目は、トリシャ・ブラウンの棒を用いたタスクによる作品を想起させるものだったけれど、ブラウンのよりも空間への顧慮が含まれていて、各自が他の5人を意識しながら(紐を貼りつつ)移動してゆくさまは、シンプルなアイディアながら緊張感のある時間をつくった。こうしたワークショップに限りなく近いパフォーマンスは、ときに参加者/パフォーマーがえた意識の変容を共有することが観客の体験となる。ならば観客が観客のままでいるのはもったいないと言うべきかもしれない。こうしたユニークな試行を経て、今後川口がさらにどんな観客との関係を切り開いてゆくのか。期待が膨らむ。
2010/02/28(日)(木村覚)