2019年07月15日号
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artscapeレビュー

佐々木耕成 展「全肯定/OK.PERFECT.YES」

2010年06月01日号

会期:2010/04/23~2010/05/23

3331 Arts Chiyoda[東京都]

今年で82歳を迎える佐々木耕成の個展。かつて読売アンデパンダン展や「ジャックの会」など前衛美術運動で活躍し、その後ニューヨークへ渡ってヒッピー・ムーブメントやヴェトナム反戦運動などカウンターカルチャーの只中で「全肯定の思想」を練り上げた。数10年前にひそかに帰国して群馬県内の山中で絵画の制作を再開したというから、今回の個展は佐々木にとってじつに40年ぶりの再デビューである。展示されたのは巨大な抽象画40点あまりと記録資料、インタビュー映像。キース・へリングの影響を受けたという抽象画は、明るいかたちが有機的に入り組んだもので、細胞分裂を目の当たりにするかのような運動性を体感できる。そこには難解な美術理論による解説など端から必要としない、あっけらかんとして、一切の屈託がなく、溌剌とした精神が体現されている。それが佐々木のいう全肯定の思想の現われであることは疑いないが、しかし、そこには一方で全否定という暗い根が張っているようにも思えた。全肯定の思想は、そもそもシベリアに抑留され、命からがら逃げ延びて帰国してきたという動物的な経験を出発点としているからだ。だから佐々木が描き出す全肯定の抽象画には、戦争という人間の存在を全否定する経験から、人間のありのままをすべて肯定するという境地に到達した、長く、そして粘り強い軌跡が隠されているのである。その反転、その回復、その飛躍こそ、佐々木耕成の絵画の本質にほかならない。これは近年のサブカル的なドローイングや日本画、あるいは80年代の抽象画にも望めない、佐々木耕成ならではの絵画的達成である。

2010/04/23(金)(福住廉)

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